誠の武士とかつおぶし。~福猫見聞録~

□第九話
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朝餉を食べ終わった千鶴の膝の上で某はくつろいでいる。

いやはや、人の膝の上は予想以上に温かく居心地が良いものである。
千鶴の膝の上というのもあるが。

微睡んでいれば、ドタドタとやかましい複数の足音が聞こえてきて少々イラつく。
今度はなんだというのだ。

「待ってくれよ新八っつぁん!俺はそんなのぜってぇ認めないからな!」

「何言ってんだ平助!アイツはお前そっくりでチビなんだからちび助に決まってんじゃねぇか!」

「俺はチビじゃねぇし!つーか、猫って言ったらやっぱタマだろ!タマにしようぜ!」

廊下の方でちび助だタマだと男二人が叫んでいる。
へいすけとしんぱちの二人だ。
何をやっているのだお前達は。

襖が豪快に開けられ、千鶴の膝の上にいる某に二人の男が迫る。
そりゃもう千鶴がのけぞる程度には迫ってきた。

「ちび助ッ!お前はちび助だよな!?ほら、ちょっと返事してみてくれよッ!!」

「いーや、コイツはタマだね!ちび助なんて嫌だよな〜、タマ!?」

二人共顔が近いし、声が大き過ぎて耳が痛い。
二人は某の名前について揉めているらしかった。
とりあえずちび助は却下である。

「うるせーぞお前ら。それに名前っつうのは皆で決めてやるもんだろうが。」

はらだが二人を某から引きはがした。
彼は常識人のようだ。

ちぇっと口を尖らせるへいすけの頭に大きな手を置き、はらだは某を見てにっこりともにやりとも言えないような笑みを浮かべる。

「とりあえず、お前は屯所に置く事になったが名前はあとでだ。」

千鶴はそれを聞いて喜んでいる。
しかし、とりあえず≠ニいう事はその内放り出される可能性もあるが。
千鶴の反応から騒いでいた二人がさらに盛り上がっている。
うるさすぎて落ち着けない。
某は騒がしくなった部屋から出るとそのままこんどうさんの部屋に向かう。
こんどうさんの部屋ならゆっくりできるはずと襖を開ければ、

「…てめぇはまたうろちょろしてやがんのか。」

般若だ。ひじかたがいる。
だけど此処はこんどうさんの部屋なのは確かだ。
般若は座布団に座っている。
畳の上に文やら大きな紙やらが広げられ、それを挟む反対側にもう一つの座布団が。
恐らくは、こんどうさんと般若が何か話している途中にこんどうさんが席を立ったりでもしているのだろう。
部屋の中に入り、広げられた紙を覗き込んでみる。

「…それが気になんのか?別に見られても困りはしねぇが、汚すんじゃねぇぞ。」

適当に覗いた紙には、たくさんの名前が書かれていた。
新選組幹部や隊士の名前らしい。
ほう、こんどうさんは近藤勇≠ニいう名なのか。
その次にある土方歳三≠ヘ般若のことで…。
新選組幹部の名前を記憶していると、般若が互いの目線が合うように前足の両脇に手を差し入れるようにして某を持ち上げた。
目線を逸らそうと思いはしたが、逸らせない。
土方の目を見た瞬間、某の何かが目を逸らすなと告げたのだ。
しかし、居心地が良いわけでもない。某は嫌がる事もできずにただ耳をひょこひょこ動かすだけであった。
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