短夢弐
□詮索せよ、君が事
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「お前を喚んだ奴というのは、どういうやつだったのかね」
夜中。月が高く登る頃。薬売りは躑躅を横目で見ながら、唐突に口を開いた。……思い出したからである。
水龍の時。彼女を喚んだのは、村を滅ぼしたいが故に贄として躑躅を水龍に差し出したのだと。
何き急に思い出したのかは、わからない。ただ空に浮かぶ月を見上げてーーーあの、蟒蛇のように腹を引きずりながらうねる水龍が、頭に思い浮かんで。
…………それに、つい聞かずにはいられなかったのだ。
あの方は。聞かれるがままに、躑躅が口を開く。月明かりの青白い光が、彼女をにわかに照らし、輝いた。
「村の方々に散々に虐げられ、恨みながら生きていたと教えて下さりました。憎くて、仕方ないのだと」
「それだけの理由で、お前を?」
「母君も、村の方々に虐げられたが故に心を病んでしまったそうです。あの方が数えで十の時に、自らお命をたったそうです」
良くある話だ、といえば失礼だろうが、日ノ本全部探せば、そんな境遇の人間などざらにいるだろう。ーー薬売りには、その悲しみはわからないが。
家族をなくした恨みで、水龍に祈り、贄として躑躅を呼び出したーーーー。薬売りにとっては、そっちの方がよほど腹が立つようなことだ。
「あの方は、私に全てを賭けておりました。水龍が生きてるうちに蘇れば、お前を外に出してやる。蘇らなければ、自分が死ぬまで粘る、と」