短夢弐

□声を聞かせて
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「主様」






「っーーーあぁ、すまない」








気がつけば、部屋には夜の帳。昼からずっと、考え事をしていたらしい。薬売りがふと我に帰れば、ろうそくの明かりがぼんやりと灯っていた。








如何なさいました。聞かれ、戸惑う。ーーーー声を聞かせて。物思いに耽る薬売りの瞳の奥で、躑躅の声が乱反射し、きらきらと瞬いた。








声が聞きたい。いや、そんなことじゃない。どうしてだか、彼はーーー躑躅の声や温もりを、心のどこかで欲している。








自分に命令される時のような、無機質な言葉、瞬き、瞳の光。そんなものではなくーーー彼女が自分から見せる微笑みや体温が、今は欲しくて。








微笑むことがないと、わかっている。彼女は自分の意思などないのだと、分かっている。けれど………内なる暖かさが、見たくて。








まだ見ぬ躑躅の微笑みが、薬売りを食らいつくし、心まで侵食するものだとしても。ーーー笑っていて。願わずにはいられない。








声を聞かせて。いつか来る、別れへの不安も。怯えも。躑躅の体温がいつかこの手から消えてしまう切なさも、払拭してしまって。








たった二人、時を止めていたい。声を聞かせて。躑躅の、躑躅だけの声を、言葉を、薬売りに。薬売りだけに。








ーーーそれは、わがままなんだろうか。薬売りには、分からない。言ってしまえば、わかりたくない。求める心だけは、正しいと信じていたい。








「躑躅」







「如何用で」







「声を聞かせて。笑ってくれ」







「主様ーーーー」







「笑ってくれ」








ーーーほら、やっぱり自分はわがままだ。どうしようもないくらい、わがままで。この上ないくらい、躑躅の温もりを求めているのだ。
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