企画

□モノノ怪対処法
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「二十八宿と八卦に掛けいわんや泰山府君に誓うべしは……」






札を指の隙間に構え、夕弦は真剣な面持ちである。それもそうだろう。彼女は今、モノノ怪退治の真っ只中にいるのだ。真剣になるのも無理はあるまい。







相手は管狐という、方士や修験者がつかう狐である。いつの間にか主人から離れた狐は、依代すらもなくモノノ怪に身を落とし、哀れにも悪に身を落としてしまった。







それが大和のあちらこちらで悪さや人に害を与えるものだから、夕弦と薬売りも黙っているわけにも行かず、こうして対峙しているのである。







しかし元は人に使われる狐。中々にすばしっこくずるの利く獣で、先程から手を焼いている。…………彼女の陰陽術をもってしても、手ごわい奴だ。







夕弦の手から札が放たれ、管狐をかこむ。しかし狐も負けてはいない。自らの長い尾でそれを跳ね除けてみせ、嘲笑うようにつん、と顔をそむけ一言鳴いてみせた。







チッ………という本日何度目か分からぬ舌打ちをする夕弦。その瞳には、焦りの表情すら伺える。仕方あるまい、かくなる上はああするしか……………と夕弦が札をひと振りの刀に変えた、刹那。







「いや、その必要は無いだろう」







「……!?ですが……!」







刀を構えた薬売りの前に、ずい、と躍り出て彼女を制した薬売り。この場で一体何を考えているのか、彼は相も変わらず呑気な口ぶりである。







この祓うか憑かれるかの瞬間で、薬売りの態度はあまりにも余裕綽々で。夕弦が図らずも眉をひそめていると…………薬売りは懐から、竹筒を一本取り出した。







なんてことはない、ただの竹筒である。若竹を縦に切り穴を開けたそれからは、嵯峨の竹林のようなさわやかな香りがして…………本当に、何から何まで場違いなひと品だ。







何をするのか、と訝しむ夕弦。すると薬売りは指笛をぴぃ、と鳴らして見せると、狐に向かってその竹筒の穴をゆっくりとした動作で差し向けた。







「お入り。お前の主人に返してやろう」







「……………返す…?」







この管狐の主人など、彼女や薬売りは知らない。詮索すらしていない主人に、どうやってこの狐を返すのだろう。……………夕弦が二三度瞬きをした、刹那。
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