短夢
□SPICE & PEPPER
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すぱいすあんどぺっぱー。
「待ってよぉ!!夕弦!!」
「待ってるわよ、早く」
あぁ、ほんとドン臭いんだから。そんなことは、言わない。
私は鏡を見ながら、アイシンクルピンクのグロスを塗る。
やっぱりこの色、買ってよかった。オレンジピンクと、迷ったのよね。
友達?あぁ、横でパーティードレスのファスナー上げてる。だからちゃんと着てこいって言ったのに。
ここはトイレだから誰も来ないけど、この子、恥ってものがないのかしら。
「ほら、後ろ向いて。直してあげる」
「ありがとぉ〜」
…それにしても、この子一回り小さいサイズ買ったわね。見えはるんじゃないって、言ったじゃない。
まあでも、いいか。少しの意地悪で、ファスナーを少しだけ開けておいてやる。
指摘されたら、恥ずかしいだろうな。そんなことを思いながら、私はトイレを出た。
「すごぉい!!人が沢山…」
「そうね。多いわね」
そりゃぁ、パーティーだもの。人くらいざらにいるわよ。なんでこの子は、そんなことも分からないのかしら。
人ごみの中、同僚を見つけたのか、颯爽と消えていく友人を見ながら、私はため息をつく。
このパーティーがなんなのかは良く分からない。だけど大企業に勤めている人には、一通り声が掛かったらしい。
こんな時便利よね。大企業の、しかも受付嬢なんて立場は。
何もしなくても、声をかけてくる人がいてくれるんだもの。
私は消えていった友人を探すこともしないで、一人会場のソファーに座って、スカルプチュアが剥げていないか確認する。
この日のために、サロンにまで行ったから、みすみす取れてもらっちゃ、困る。
ラインストーンを貼りなおそうと接着剤を取り出した私に、ふと人影が立ちはだかった。
「…?」
思わずつられるように上を見てみれば。