仮
□君に溺れたその瞬間
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部室の扉を開けた瞬間、見えたその姿に俊也は呆然とした。
端麗な顔立ち、白い肌、やや痩せ型の体躯。
流れるような黒髪は風邪になびき、鋭く秀麗な瞳は今は閉じられている。
一見、女と見間違えそうなその人物は、これでも間違いなく男である。
その十人がすれ違えば十人が振り向くであろう美貌の持ち主は、あろうことか鍵もかかっていない部屋の中で何とも気持ちよさそうに寝入っていた。
全く、無防備にも程がある。
はぁ、と盛大にため息をついて俊也は空目の隣に腰を下ろした。
もう少し危機意識というものを持ってもらいたいものだ。
今までだって何度となく空目に言い寄る男を文芸部メンバー(主に俊也)が撃退してきた事を、空目は知らない。
大体、今だってもし俺じゃなく変な考えを起こす輩が来たらどうするつもりだったんだ、と心の中で悪態をつきながら俊也はちらりと空目を見た。
本当に綺麗だな、と思う。
これで自分と同じ男なのだから不思議だ。
「………ん…」
小さく呻くような空目の声に、俊也の心臓がどくんと跳ねる。
空目は未だ、目を覚ます気配はない。
ゆっくりと顔を近付けてみる。
顔が火照っていく。
もう少しで互いの唇が触れそうになったその時、
「……ぅ…ん……」
その微かなうめき声に俊也はがばっと空目から身を逸らした。
――何やってんだ、俺はっ!
未だうるさいぐらいにどくどくと脈打つ心臓を何とか宥めながら深呼吸――
「……村神?」
「うわぁっ!?」
急に背後からかけられたその声に俊也は思わず叫んでいた。
その反応に驚いたのか、空目もビクッと肩を揺らす。
「どうした?何をそんな所でうずくまっている?」
「い、いや…、何でもない」
まさかお前にキスしようとして何とか思いとどまって自問自答してましたとは口が裂けても言えない。
まぁ言ったところで空目の場合、そうかの一言ですましてしまうだろうが。