桜駅文庫(戯曲)

□地下鉄の必要性
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地下鉄の必要性〜東洋唯一の地下鉄道、時を越えた出会い〜  作者 中浜島 優

瑠璃川龍次(るりかわりゅうじ)
東京旅客地下鉄、中上野駅駅員。
浜島 琉次(はまじまりゅうじ)
東京旅客地下鉄道の創設者。4代目社長。
白石 宏一(しらいしこういち)
東京高速旅客鉄道の創設者。
湯島聖二郎(ゆしませいじろう)
実業家。東京旅客地下鉄道3代目社長。
星野 広和(ほしのひろかず)
帝都高速度交通局、初代局長。鉄道省職員。
小坂 哲葉(こさかてつは)
東京旅客地下鉄、中上野駅駅員。
助役
琉次の友人
土木課の職員

(回想)ロンドンの地下鉄内
 舞台暗転。中央にベンチ(電車の椅子らしく)。椅子には2人の男性が座っている。
 舞台暗転のまま。地下鉄の音。

琉次) これが・・・地下鉄・・・?
友人) そうです。どうですか?乗り心地は?
琉次) 何も見えないな・・・音も少し気になる・・・が、あとは普通の電車と何も変わらないな。
友人) この地下鉄、テムズ川の下を通ってるんですよ。
琉次) なんとっ!テムズ川の下だって!?水は・・・水は入ってこないのかね?
友人) その辺は、ちゃんと考えてありますから。
琉次) ・・・(ちょっと考え込む)
友人) 琉次さん?どうしたんですか?そんな難しい顔して・・・
琉次) ・・・これなら・・・地下鉄なら・・・時間通り電車を運転することが可能じゃないか!市電のラッシュだって・・・ぎゅうぎゅうで、つっかえて、危険だらけだ。それを救うのは・・・地下鉄だ。東京にも地下鉄が必要なんだ!これからの都市交通は地下鉄だ!ありがとう、思いついたよ。
友人) どうしたんですか?
琉次) 私はもう戻る。東京に地下鉄をつくるよ。

 地下鉄の音。

 (現代)地下鉄浅野線中上野駅終電直後のホーム。
 舞台中央に龍次がいる。琉次、ベンチに座って路線図を読んでいる。陽明。

龍次) よしっ、終電終わりっと。疲れたぁー。

 龍次、まわりを見回す。ベンチに座っている琉次を発見する。そっと近付く。

龍次) あのー・・・
琉次) 今の地下鉄はいろいろなところを走ってるんだな・・・
龍次) わっ!?
琉次) おっ!
龍次) あの・・・いつからそこに・・・
琉次) ん?
龍次) いやっ、あのっ、し・・・終電・・・
琉次) 君はこの駅の駅員かい?
龍次) は、はいっ・・・あ、すみません・・・めまいが・・・

 龍次、倒れる。慌てて琉次が受け止める。

琉次) どうやら彼を驚かせて過ぎてしまったようだな・・・。

 琉次、龍次をベンチに立てかけると、ハンカチを濡らして、龍次の額に置く。

龍次) 冷たっ・・・
琉次) よかった。気が付いたようだね。
龍次) すみません・・・ご迷惑をお掛けしてしまって・・・ん?あ、目の錯覚じゃなかったんだ・・・。(←独り言風に)
琉次) ん?
龍次) (聞こえたかもしれない・・・と慌てて)し、失礼ですが、お名前は?
琉次) 私の名は、浜島琉次。君は?
龍次) 瑠璃川龍次といいます。
琉次) 君も「りゅうじ」なのか。偶然だな。・・・大丈夫か?顔色よくないぞ。
龍次) すみません・・・大丈夫です。昨日のかぜが尾を引いてるもので・・・大したことないですから・・・
琉次) バカか君は!駅員たるもの、体調管理は怠ってはならない!早急に病院へ行くんだ!明日の朝一だ!
哲葉) のろまドラゴーン!!
龍次) あっ、あの女・・・
琉次) 誰か来たようだな。

 下手より、哲葉登場。

哲葉) 座ってるって事は、やっぱり倒れたか。
龍次) やっぱりってなんだよ。
哲葉) だいたいね、昨日熱出して早退してるのに、1日で治るわけないでしょ。のろまドラゴンはと・く・に!
龍次) あ、てめ、言いやがったな・・・(立ち上がろうとする)
琉次) やめろ、せっかくひいた熱が上がるだろ!
龍次) っと・・・(また座り込む)
哲葉) 無理に動こうとするからよ。少しは自分のこと考えなさいよね。ま、今日はもう終わったから、とっとと事務所行って寝なさい。

 哲葉、下手にはける。

龍次) あのやろー・・・
琉次) 落ち着けって言ってるだろう。また熱出して仕事が出来なくなったらどうするんだ。
龍次) 今度会ったらただじゃおかねぇからな・・・
琉次) 龍次君!!落ち着け。体に障る。もう休みなさい。始発まではまだ、時間がある。
龍次) ・・・そうします・・・。おやすみなさい。

 龍次、下手にはける。

琉次) ふぅ・・・彼も大変なんだな・・・

 暗転。
(場面)浅野線中上野駅ホーム、始発電車到着。
地下鉄の音。ベンチに琉次が寝ている。舞台中央、龍治が立っている。陽明。

龍次) 2番線到着の電車は、中央浅草行きです。

 発車ベル音。琉次、起きる。

龍次) まもなく発車いたします。閉まるドアにご注意下さい。

 地下鉄の音。
琉次) もう大丈夫なのかい?
龍次) わっ・・・(後ろを振り向く)琉次さん。いつからそこにいたんですか?
琉次) 昨日からずっとさ。どうだい体調は?
龍次) あの後、すぐ寝てしまって。おかげさまですっかりよくなりました。
琉次) ほぅ・・・ま、それならいいんだ。
龍次) ご心配をお掛けしました。あの、そういえば、琉次さんはどうしてここに?どこかへ行かれるんですか?
琉次) いや、我が地下鉄はどんな状況なのか、見たくなってな。
龍次) はぁ・・・(?)
宏一) 浜島ぁー!!
琉次) うわっ、来たな。

 琉次、下手にはける。龍次、龍次の行く方向を見る。上手より、宏一登場。

宏一) まったく、あの男はどこへ行ったんだ・・・あ、おい、そこの駅員。
龍次) (急いで振り返り)はい、俺ですか?
宏一) そうだ。浜島琉次って男は知らないか?
龍次) はまじまりゅうじ・・・?あ、はい。彼ならさっきまでそこのベンチに座ってたのですが、どこかへ行ってしまいました。
宏一) そうか・・・逃げ足の早いやつめ・・・
龍次) あの、失礼ですが、お名前は?
宏一) 私の名は、白石宏一。東京高速旅客鉄道の者だ。君は?
龍次) 瑠璃川龍次です。
宏一) なんだって!君の名は「りゅうじ」!あいつと同じ名前じゃないか・・・かわいそうに・・・。君、改名しなさい。
龍次) えっ、それは嫌ですよ。こんな理由では改名は出来ませんし、冗談はよしてください。それより、浜島さんに何かご用でも?
宏一) 実はな、我々の、渋谷山−中新橋間の電車と、浜島の中央浅草−中新橋間の電車を直通にして、渋谷山−中央浅草間を開通させたいんだ。しかし、あいつときたら、全く取り合ってくれん。
龍次) あの・・・中央浅草−渋谷山間でしたら、もう、1つになって・・・
宏一) 私はお客様のことを考えて直通にしたいんだ。今は、中新橋駅には2つのホームがある。お客様は不便だと言っている。ここは、一刻も早く何とかするしかないだろう。
龍次) あー・・・大変なんですね・・・
宏一) まぁ、いい。とにかくあいつを捜そう。そしてもう一度交渉だ。

 宏一、上手にはける。
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