桜駅文庫(戯曲)

□地下鉄の必要性
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下手より、琉次登場。

琉次) まったく、うるさい男だ・・・
龍次) 知ってる方なんですか?
琉次) 知ってるもなにも・・・あいつは、私の計画を邪魔しようとしてるんだ。
龍次) 邪魔・・・ですか?
琉次) 私は、中新橋から先は、南品川の方に進めたいが、あいつは渋谷山の方に行く線とつなげたいと言ってきた。
龍次) その線でしたら・・・
聖二郎)りゅうじーっ!

 上手より、聖二郎登場。

琉次) 湯島さん!(龍次と同時に)
龍次) はい、お呼びですか?(琉次と同時に)
聖二郎)(龍次の方に向かう)りゅうじ!ここで一体何してるんだ。また満鉄の駅員やってるのか?
龍次) え?また満鉄って・・・いや、俺は、東京地下鉄の中上野駅の駅員ですよ。
聖二郎)ん?・・・君、本当に琉次?ちょっと待ってくれ、いくらなんでも若すぎる。冗談は止めてくれ。
琉次) 湯島さん、琉次は私です。
聖二郎)ん?・・・(琉次の方を見て)おおっ、琉次!・・・となると、彼は?
琉次) 彼の名も「りゅうじ」ですよ。
聖二郎)ほぅ・・・紛らわしい・・・。まぁ、それより、琉次、いい加減に白石さんの話を聞いてあげたらどうだ。彼はお客様のためを思って言ってるんだ。
琉次) 私は彼にも提案しているんですよ。中新橋−虎の戸−東京にすればいいじゃないですかと。ですが・・・
聖二郎)お前の言い分もわからなくはない。しかしな、お客様のことを考えてみろ。お客様は不便だと、ひとつになってれば楽だと言っているんだ。
琉次) 我々には、我々の計画があるんだ、湯島さん。今ここであの男の要求をのんだら、私の計画が・・・私の地下鉄が台無しになってしまうんですよ!
聖二郎)琉次・・・
龍次) あの、お二人は、最初に、この東京という場所に、地下鉄を走らせたんですよね。特に、琉次さん、あなたは東京の地下鉄の必要性に早く気付かれたそうじゃないですか。
琉次) ・・・そうだが・・・
龍次) あなたは地下鉄建設に向けて必死に頑張ってたそうじゃないですか。まわりの人がどんなに悪口を言おうとも、どんなに困難な壁が立ちはだかっても、諦めなかったそうじゃないですか。
琉次) ・・・
聖二郎)確かにそうですね・・・。琉次は誰に何と言われようと、諦めなかった。東京に地下鉄が必要だという、認識を変えることなく・・・。
龍次) その夢がようやく叶った今、次に考えるのは、やはりお客様のことではないでしょうか?お客様の目線で見て、考えることはたくさんあるはずです。そのひとつとして、ホームが2つというのは、いかがなものでしょう?
琉次) ・・・不便か・・・
龍次) お客様の目線で見るって、とても大事で、難しいことだと思います。
琉次) 私は・・・
龍次) 地下鉄は、ただ利益を生むためのものではありません。俺は、地下鉄は、夢を運ぶものだと思っています。・・・小さい子の夢、鉄道ファンの夢、利用客の夢、そして・・・琉次さん、あなたの夢です。

 地下鉄の音。

琉次) 私の夢・・・
龍次) はい、あなたの夢です。東京に地下鉄を通すという。
琉次) ・・・どうやら、何か重要なことを忘れていたようだ。
聖二郎)大切なものを失わずに済んだな。ありがとう、龍次さん。

 宏一、上手より登場。

宏一) あ、やっと見つけた・・・。浜・・・
聖二郎)白石さん、直通にしましょう。
宏一) え・・・?
聖二郎)琉次も同意してくれました。一緒に運転しましょう。
宏一) その話、本当ですか?
琉次) あまり気が乗らんが、その方がそっちにとって、都合がいいんだろう?
聖二郎)琉次。・・・白石さん、どうぞよろしくお願いいたします。
宏一) こちらこそよろしくお願いいたします。

 聖二郎、琉次、宏一、3人で手を組む。

聖二郎)じゃあ早速、手続きをしに戻りましょうか。
琉次) 先に行っててください。私は、この人(龍次をさして)に話がある。
聖二郎)わかった。

 宏一、聖二郎、上手にはける。

龍次) すみませんでした。なんか、偉そうなこと言ってしまって・・・
琉次) いや、君は立派だったよ。君のおかげで、私は大切なものを失わずに済んだのだから。君が、あの時、あんなことを言ってくれなかったら、私は、一番大切なものを失ったまま、経営していたかもしれない。
龍次) ですが、地下鉄への愛情は・・・
琉次) いや、それだけではできんよ。しかも、君の方が一枚上手だった。これからは、君から学んだことを糧に、経営していこうと思う。それにしても惜しいな、君のような人間が、我が社にいないのは・・・。
龍次) いいえ、琉次さん。俺は、琉次さんの会社の社員ですよ。俺が入社したのは、琉次さんの未来の会社ですから。そういえば、まだ時間あります?
琉次) あ・・・あぁ、まぁ。
龍次) 質問があるんですよ。いいですか?
琉次) 何だい?
龍次) 地下鉄建設って、地盤とか資金とか、色々からんでくるじゃないですか。それはどうされたんですか?
琉次) そうだなぁ・・・とにかく、いろいろな人に、地下鉄の必要性を説いてまわったよ。でも、やっぱり誰も信頼してくれない。「夢みたいな・・・」って言う人もいれば、「路面電車を2階建てにしたら?」なんて言う人もいてね・・・。専門家も無理だと言うから、困ったね・・・。
龍次) あー・・・やっぱり、そう言われるんですか。
琉次) で、だ。私が考えたのは、交通調査だ。

 暗転。
(回想)琉次の自宅。琉次の奥さんと琉次がいる。暗転のまま。

琉次) 黒い豆と白い豆を早急に用意してくれないか?
奥さん)あら、いいですけど。一体何をなさるつもり?
琉次) 交通調査だよ。ちょっと今日は中上野まで行ってくるから。
奥さん)はぁ。わかりました。

 陽明。

龍次) 豆で交通調査を?
琉次) 黒豆と白豆を使ってね。これが、なかなかおもしろい。ラッシュの時間ともなれば、人の多いこと多いこと。おかげで、いい結果を見ることが出来たよ。
龍次) すごいですね。豆かぁ・・・
琉次) それから、地盤の問題。東京は、昔、海だったそうだから、専門家が地盤が軟らかいから無理だって言ってたが・・・

 暗転。
 (回想)富士見谷市役所土木課。暗転のまま。

琉次) 橋を架けるときは、地盤調査はするのかね?
職員) あ、はい。しますよ。
琉次) ぜひ、その資料を見せていただきたいのだが・・・
職員) はい、いいですよ。じゃ、ちょっとこちらに・・・

職員) どうぞ、こちらになります。
琉次) ほう・・・地盤がよくないのは・・・24・・・おや、日本橋は・・・片側に杭がないのに立っているのか!
職員) よく立ってますよね。
琉次) 東京の地盤は弱くないんだな。あ、地下水・・・。すみませんが、地下水の方は・・・
職員) 道路係がわかると思います。ちょっと待っててください。

職員) こちらが井戸水に関する資料ですね。
琉次) どうも。・・・7〜9ぐらいしか深さがないのか・・・。ん?おや、さらに鉄管が打ってある・・・なんだ、深く掘らなきゃ水なんて出てこないじゃないか。よし、これでわかったぞ!ありがとうございました!

 陽明。

龍次) 裏付けが取れたわけですね。
琉次) そうだな。この先は、「起業目論見書」とか「敷設費用概算書」って、難しい資料とかを書いて、提出し、あとは、開業に向けて工事をしたんだ。
龍次) すごいですね、俺には出来ませんよ、そこまで。
琉次) いや、君にも出来るさ。大事なのは、気持ちだよ。
龍次) そうですかね・・・。
琉次) 自信を持て。・・・君は、私の上を行く者だ。私のことは、すぐに越えられるだろう。そうだ、私からも、質問していいかな?
龍次) はい、なんでしょう?
琉次) 君がさっき言った、私の未来の会社とはいったい何のことなんだい?
龍次) 「東京地下鉄」・・・「東京旅客地下鉄道」の未来の会社です。東京の地下には、どんどん地下鉄が発達していくんです。そして、現在、地下鉄は、東京の有効な足として、多くの方が利用しています。
琉次) 地下鉄が・・・発達していくのか・・・
龍次) はい。
琉次) そうか・・・わかった。なんだか、不思議な自信が出てきた。私も行くとしよう。それじゃ。

 琉次、上手にはける。
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