桜駅文庫(戯曲)

□地下鉄の必要性
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龍次) ふぅ・・・なんか、疲れたなぁ・・・。あ、やべ、休んでる暇ねぇよ。仕事仕事・・・
広和) すみませーんっ!

 広和、上手より登場。

龍次) はい、どうしましたか?
広和) て・・・鉄道省の者ですが・・・浜島琉次さんと白石宏一さんという方を知りませんか?
龍次) あ、さっきまでここにいましたが、もう帰られましたよ。
広和) そんな・・・いなくなってしまったんですよ、お二人とも。
龍次) え?
広和) お二人は、1つの線を直通にするかしないかでとてももめたんです。それで、湯島さんが間に入ってなんとか浜島さんを説得し、直通になったのですが、白石さんが浜島さんの会社を買収しようと株を買い進め、それに危機感を覚えた浜島さん側が抵抗してて・・・
龍次) なんで、買収を・・・?
広和) 白石さんの考えでは、1つになった線を動かすのは、1社でいいのではないかと考えたようで、それで・・・。話し合いは無理と思われたようなんです。
龍次) それ・・・だけで・・・?
広和) 湯島さんがお亡くなりになってから、事態はますます泥沼化してしまったので、我々鉄道省が、調停に入ったんです。処分として、浜島さんと白石さんには会社を辞めていただきました。そしたら、お二人ともどこかへ行ってしまって・・・
龍次) そうですか・・・じゃあ、一緒に探しましょう。
広和) え・・・?いいんですか?ご迷惑じゃないんですか?
龍次) いいえ、全然。こんな俺でよければ、喜んでお手伝いしますよ。
広和) ありがとうございます!あの、お名前伺ってもよろしいですか?
龍次) 瑠璃川龍次です。
広和) りゅうじさんですか。あの人と同じなんですね、浜島琉次さんと。
龍次) そうですね。じゃあ、お互い、何か情報を得たら、この駅の掲示板に書きましょう。
広和) はい。
龍次) 頑張りましょう。・・・あ、お名前は?
広和) 星野広和です。それでは、また明日。

 広和、上手にはける。下手より、哲葉登場。

哲葉) 何してんの?
龍次) うわっ、哲葉。仕事してんだよ、仕事。
哲葉) あ、助役が呼んでるよ。事務所戻ってこいだって。
龍次) 助役が?・・・俺なんかしたっけな・・・
哲葉) クビにされんじゃないの〜?
龍次) うるせぇ、ま、行ってくるか。

 龍次、下手にはける。上手より、琉次登場。ベンチに座る。

琉次) ついにこの日が来てしまったか・・・
哲葉) (後ろを振り向く)わっ、何、このおじさん・・・
琉次) 失礼な!君は一体誰なんだ?
哲葉) 私は、ここの駅員です。おじさんこそ誰なんですか?
琉次) 私の名は浜島琉次だ。
哲葉) りゅうじ!あの、のろまドラゴンと一緒・・・
琉次) 君は、瑠璃川龍次君のことは知ってるかね?
哲葉) あぁ、あいつなら、駅事務所にいると思いますよ。何か用事でも?
琉次) 駅事務所はどちらだい?
哲葉) (下手をさして)あっちですよ。ここから50メートルぐらい先にあります。
琉次) そうか、ありがとな。

 琉次、下手にはける。

哲葉) 何なんだろう・・・あの人・・・。

 地下鉄の音。暗転。哲葉、下手にはける。
 (場面)中上野駅駅事務所。
 舞台中央、助役(駅長)と龍次がいる。舞台暗転のまま。

助役) はい、龍次、手紙。
龍次) え?俺にですか?
助役) 開けてみな。
龍次) (手紙を受け取って読む)・・・・・・え?
助役) やったな、おめでとう。車掌登用試験、合格だ。
龍次) これ・・・本当ですか?本当なんですか?
助役) 瑠璃川龍次って書いてあるだろう?これからは、お前の仕事場は、中上野車掌区だ。
琉次) どなたかいるかね?
龍次) 琉次さん!

助役、はける。陽明。(場面)中上野駅ホーム。

龍次) 聞いてください!俺、車掌になれたんです!
琉次) 車掌?・・・おぉ、車掌か!やったじゃないか。よかったな。
龍次) 琉次さん、俺、いつか琉次さんの地下鉄を動かすのが夢なんです。
琉次) え?
龍次) 琉次さんが、東京という場所に通してくださった地下鉄を、運転したいんです。
琉次) いや、しかし、我が社の地下鉄は政府に・・・
龍次) 東京旅客地下鉄道は、東京高速鉄道とひとつになって、帝都高速度交通局になった・・・。そうですよね?
琉次) ・・・なぜ、知っている・・・?
龍次) 簡単な推理です。俺は、帝都からの人間なんで。一昨年前の、4月1日、帝都は再び民営化され、今に至ってます。
琉次) 民営化?
龍次) 一度は政府が動かすことになりますけど、また生まれ変わって、「東京地下鉄」・・・「東京旅客地下鉄株式会社」になって、新たな一歩を踏み出したんです。
琉次) そうか・・・よかった・・・ありがとう・・・龍次君。私は、君が運転している姿を見たいが・・・
広和) 浜島さーん!

 上手より、広和登場。

広和) よかった・・・ここにいらっしゃったんですね。探しましたよ。
琉次) 頑張ってくれよ、龍次君。またいつか、君に会いたいよ。
龍次) 俺もです。また会いましょう。

 広和、琉次、上手にはけかける。

龍次) (呼び止めるように)琉次さん!!・・・俺、嬉しかったです。琉次さんに言われた言葉。
琉次) (立ち止まって)何か・・・言ったかな?
龍次) 「バカか君は!駅員たる者、体調管理を怠ってはならない!」・・・この言葉、車掌になっても、運転士になっても忘れません。
琉次) あぁ、それか。その言葉は、私もよく言われてたんだよ。満鉄の時の先輩に。じゃあ、龍次君。我々は行くよ。

 広和、琉次上手にはける。哲葉、下手より登場。

哲葉) こんなとこで何してんのよ?
龍次) 何って・・・・・・
哲葉) どうしたの?黙っちゃって。
龍次) いや、なんか嬉しくてな・・・。
哲葉) 何が?
龍次) ん?車掌の試験に受かったんだよ。
哲葉) へぇ。でも、それだけ?
龍次) あぁ。・・・さぁて、引っ越しの準備でもするか!
哲葉) 引っ越しって・・・?
龍次) 俺は、今度から、中上野車掌区で働くからって言っただろ?じゃあな!

 龍次、下手にはける。
哲葉) ちょっと、のろまっ!

 哲葉、下手にはける。暗転。

友人) すごいですね、琉次さん。地下鉄、成功したじゃないですか。
琉次) いや、自分1人だけではどうしようもなかった。湯島さんたちのおかげだよ。
友人) そういえば、地下鉄建設、結構大変でしたでしょう?
琉次) 君にも、私の建設までの話をすべきかな?
友人) ぜひ、聞かせてくださいよ。

 警笛&地下鉄の音
             幕
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