桜駅文庫(戯曲)

□お医者さんのタマゴ
1ページ/5ページ

お医者さんのタマゴ〜medical college story〜
作者 中浜島 優

沙絵(さえ)
月美(つきみ)
葵(あおい)
梨伯(りはく)
琉音(るお)
柊(しゅう)
両国教授  形成外科
深川教授  病理学
渋谷助教授 小児科

 舞台上には6個のパイプ椅子と会議室の机がある。机の上には、医学書や医学雑誌、レポート用紙などが乗っている。椅子の上にはそれぞれのかばんが置いてある。陽明。
上手より沙絵、月美、葵、梨伯、琉音、柊登場。

沙絵)疲れたー!
月美)あら、そんな感じないけど。まだまだいけます、ってかんじよ。
葵 )臨床研修が始まった5年次から、すごく楽しそうにしてるよね、沙絵。
沙絵)そぉ?
梨伯)見てて思うよ。お前は医者になるべく生まれたような奴だってな。
沙絵)えー・・・
柊 )教授たちからも信頼されてるし、俺たちも結構頼ってるところはあるし、患者さんたちの前では、いつも笑顔だし。
琉音)深川教授が「医師免許与えてやりたい」とか言ってたぜ。
沙絵)そんな・・・みんなだってすごいところがいっぱいあるよ。例えば、月美は・・・
深川)沙絵。(声のみ)

深川教授、上手より登場。

沙絵)あっ、深川教授・・・なんでしょうか?
深川)この前貸した本、どうした?
沙絵)え?
深川)え、じゃないよ。この前貸した血液学の本、どうした?
沙絵)あー・・・すみません。家です。
深川)あ、それならいいや。ま、がんばれよ。

深川教授、上手にはける。

月美)血液学の本って?
沙絵)まぁ、ちょっと知りたいことがあってね。
月美)そう。それより、おなか空いてない?
沙絵)そうだね。何か食べよっか。
琉音)今の時間、食堂はもうやってないぞ。
葵 )あ、今日、メロンパンの移動販売車が来る日だよ。
柊 )じゃあそれ食うか。
梨伯)確か、大学の中央玄関のところだったよな。俺、買ってくるよ。全員分。
沙絵)私も行くよ。1人じゃ大変だと思うから。
梨伯)サンキュー。

 沙絵、梨伯、下手にはける。

月美)506号室の田宮さんなんだけどさ・・・。
琉音)みか子ばあちゃんか?
月美)そう。最近彼女、お薬のんでないらしくてね。少し数値が悪いのよね。
柊 )のんでない?どういうことだよ。担当の佐々木先生がこの前指導してたばかりなのに、また?
月美)そうなの。
柊 )そうか・・・何がいけないんだ?
琉音)みか子ばあちゃんの薬ってなんだっけ?
月美)血糖値を下げる薬。
琉音)インシュリン注射は?
月美)してる・・・というかさせてる。
柊 )んー・・・どうしたものか・・・
葵 )何、どうしたの?
月美)田宮さんっているでしょ?
葵 )あぁ、なんかいた気がする。その人がどうしたの?
月美)お薬をのんでくれないの。何かいい方法ない?
葵 )うーん・・・わからない・・・。あっ、沙絵ならわかるんじゃない?
月美)沙絵が・・・?
葵 )沙絵、何でも知ってるでしょ。

 沙絵、梨伯、袋を提げて下手より登場。

月美)おかえり。
沙絵)ちゃんと全員分買ってきたよ!今日の人、すごくおもしろくて優しい人でね、クロワッサンと、チョコかけパンもくれたの。
梨伯)今日は当たりだったな。
月美)あの、ちょっといい?田宮さんって知ってる?
沙絵)みか子ばあね。うん、あの人はおもしろい人なんだけどね、「医者の言うことなんて聞いてられるか」っていつも言ってるんだよね。もしかして、また薬飲んでないとか?
月美)な、なんでわかるの・・・。
沙絵)みか子ばあとは、つきあい長いから。初めて臨床実習した日からの(つきあい)だからね。そうだね・・・解決策の一つとして、押上助教授に服薬指導してもらうのはどう?彼女によく効く、最高の薬だよ。
月美)そうなの?
沙絵)他の先生の言うことは聞かないけど、唯一、押上助教授の言うことだけは聞くんだって。困ったときは、「操縦士」に助けてもらえって、先輩も言ってたし。
月美)「操縦士」ね・・・。わかった。話してみるわ。
沙絵)さ、せっかく買ってきたんだから、食べようよ。

 沙絵、全員に一つずつ小さい紙袋を配る。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ