StoryV

□まつりかがり。
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「クロウリーに、重要な任務をお願いしたいの」
白いエプロンのリナリーが、にっこり笑った。


《まつりかがり。》


クロウリーは、些か緊張した面持ちであった。
それが目の前の少年のせいなのか、先ほど告げられた重要任務の為なのかは判断しにくく、また、周囲には判断する人物も見当たらない。
「おい」
張り詰めた空気が限界点を突破しかけた刹那、クロウリーの目前に居た黒髪の少年が溜め息しつつ口を開く。
その口調はぞんざいで、声にはちらりとだが疲れがかいま見えた。
目に見えて分かるのはそれだけではない。切れ長の瞳はそこはかとなく苛立ちを秘めて、端正な眉は眉間にギュッと寄っている。
「用は何だ」
続けて発せられた投げやりな言葉に、クロウリーはその、と躊躇う。
その額には似合わぬ汗が滲み、引き攣る笑みは彼の精神状態を物語っていた。
「あの、その、に、任務ご苦労様だったである」
「そう思うならさっさと退け」
「あ、いやその」
「俺は部屋で休みてぇんだよ、退・け。」
しどろもどろなクロウリーの体は狭い廊下を塞いでいて、神田は前へと進めない。
しかしクロウリーがそこから避ける気配は無く、神田の足はジリリと床を捩り付けた。
今にも噛み付かれ――いや、斬り掛かられそうな視線に、クロウリーはじわりと涙腺が開くのを感じる。
―――リ、リナリー………!
心の中で小さく叫びつつももう一度その、と繰り返し、こうなったら、こじつけでも良いからとにかくどうにかしなければ、と焦って畳み掛けた。
「任務帰りでお腹が空いているであろう!?」
「腹は空いてない」
「で、では、喉はッ!?」
「渇いてねぇ」
「ジェリーにただいまは言ったであるか?」
「斬るぞ」
「とにかく食堂へ行くである…!」
ぐぃと腕を取って歩き出せば、あぁ!?と声が付いてくる。
浴びせ掛けられる疑問と怒りに耳栓をしてだだっと廊下を進んでいくと、そのうちに大きな扉が見えて来た。
良かった…!
クロウリーが胸を撫で下ろした瞬間。

「いい加減にしやがれ!」

神田の腕が、クロウリーの手から逃げ出した。


 
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