Jewel box
□指先の口実
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久しぶりに開けた、巻き戻しの街から持ってきた鞄。
その鞄の隅から転がり出てきたのは、随分前に買った薄桃色の色彩。可愛らしくて、自分には似合わない色彩。
「紛れて持ってきていたのね…」
ほぅ、と息をはいて。
苦笑い。
過去に買った化粧品は、これひとつきり。露店商に半ば強引に買わされたこの、マニキュアひとつ。
自分には似合わないと言って、それでも捨てきることができずに、ドレッサーの中にしまってした。
そんなマニキュアと、今になって再会するなんて。
「今なら…塗れるかしら?」
少しは、変わったと感じれるから。
薄桃色だって、爪の先くらいなら、似合うかもしれないと思った。
蓋を開けて、丁寧に刷毛を出して。ぷるぷると震える左手の親指に塗りつけてみる。
けれど無器用な指はうまく動いてくれず、あっちこっちにはみだして、色も斑になってしまった。
せっかくの決意も、この酷いありさまの前ではあっさり消えてしまう。
「……何をやっても駄目ね」
前ほどブルーな気持ちにはならなかったけれど。
少し落ち込んで、蓋を閉めた。
どうせ無理だから、瓶はごみ箱に捨てた。