Other's story

□nail
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よそよそしさを残して、その手は僕に触れた。


《nail》


「……何してるんですか」
「何、と言いますか。あなたが」
呆れたように言い返されて、え、と口ごもる。そりゃあ、確かに言い出したのは僕ですが。
同意したのは誰ですか、とぴたりと胸の中央に置かれただけの手をハァと見下ろした。手袋の無い綺麗な肌色。掴もうとすると、リンクは僕が触れる前にその指先をさっと背中に引く。その慌てた素振りに少しムッとして、もう一度顔を仰いだ。
見えた顔はいつものしかめっ面なのに、少しだけ焦っているようで、柄でもなく緊張しているのだろうかと思う。
この場合緊張するのは僕の方でしょう。もう一度わざと溜め息を吐いてみた。ピクリと眉が反応する。
「怖いなら、止めておきます?」
「……あなたが止めたいと言うなら」
「何ですかそれ。酷いなぁ」
けれどそれを合図に焚き付けようとしても、反応はつれない。何なんですかもう!溜め息を吐きつつ、僕だけはだけたシャツの裾を弄ぶ。一瞬だけ目が合えば、リンクの視線が泳いだ。
半端に晒した体が空しく冷えていく。言葉を待ってみても、着ろとも脱げとも言われない。リンクは目の前に座りながらタイすら緩めていない、これでは僕だけがまるで。
ああ、なんて滑稽。
「寒いんですけど」
「……冬ですからね」
「違いますよ」
「そうですか」
どうにもならない。
「……っちゃんと、触ってください」
仕方なく僕の方から手を引いて、冷えた自分の胸へ引き寄せた。今度は、ちゃんと寒さに起ち上がった突起を覆うように。
「なっ」
「ッあ!」
びくりと逃げようとした手の平が、偶然その下にある突起を押し潰す。いきなりの感覚に漏らした声に、一層焦って手が暴れる。
「ッ……リンク、」
それを無理に両手で引き留めて、強く僕の体に這わせた。少しだけかさついた熱い指先と、短く切り揃えられた爪。かり、と弱く肌がこすれ合う。
僕から逃げようとする動きが、皮肉にも愛撫に似た刺激になっていた。
「っ放しなさい!」
慌てた声が叱るように言う。赤くした顔をそむけながら僕の腕を振りほどこうとする姿に、何を言うべきかも分からなくなって、ぐい、とリンクの両肩を押して倒した。
倒れた時にごちんと音がした。けれど頭を打ったことにすら気が回らないらしい。リンクの目は僕だけを狼狽えながら睨んでいる。
「な……ウォーカー、」
「……するって言ったんなら、してください!」
恥ずかしさに声がかすれた。
と、リンクの動きが大人しくなる。押さえていた手を放しても。丸い眼が僕を見ている。
「、リンク?」
答えはなかった。
少しだけ、ほんの僅かにだけ緩んだ衿元に手を伸ばしてみる。糊の効いたシャツに触れてもお叱りはなし。馬乗りになった格好のままタイを引っ張る。シュル、とどことなく卑猥な音をたてて布が解けた。
しかめられた眉間、まばたきする鋭い目。見てるだけですか?改めて問えば、短い溜息の後、両手で頬を挟まれる。リンクの口角が、観念したように微かに動く。
「全く、あなたという人は仕様が無い」
そのまま引き寄せられる顔に、僕はようやく目を閉じた。

fin


後書き

こう……なんつーか……青春つか……性春つか……甘酸っぱさつか……なんつーか……!!!!
まぁあれだ、若いのう。


write2010/1/8
up2010/1/8

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