Story

□叫べることのあぁ自由さを。
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「お疲れさ〜…」
「お疲れである」
また奇怪が一つ片付いた。
帰団までの短い時間、それぞれ街の散策が始まる。

「わふっ!」
ぽすり、と足元に何かがぶつかる。
「犬…?であるか」
アレイスターは左手の手袋を外し、その茶色い身をそっと撫でた。そしてその体が痩せ細っていることに気付くと、腰のホルダーから菓子を取り出しそっとその口元に近付けてやる。
「食べないのか?」
ふんふん、と鼻を近づけて嗅ぐのみで、一向に口に入れようとしない犬を見て、アレイスターは手の平の菓子を一口噛り、
「平気である」
ともう一度犬の前に差し出した。
犬はそれを見て、もう一度ふん、と菓子を嗅ぐと、あぐりと口に入れる。そうしてから、アレイスターの手をぺろり、と舐めた。
「くすぐったいであるよ」
クスクスと笑うアレイスターの手を舐めながら、犬は尾をハタハタと揺らしている。
「未だ要るのか?」
ちょっと待つである。
彼がもう一度ホルダーに手を伸ばそうとすると、後ろで足音が聞こえた。
「何してるんさ?」
それはラビ、仲間である赤毛の少年だった。
「犬である」
菓子を差し出しながら言うアレイスターに、ラビは眉を顰めた。
「止めた方が良いぜ?」
「え?」
一緒にはしゃぎはすれどまさか止められるとは思っておらず、アレイスターは驚いて少年を見る。
ラビは困ったような表情で、「飼えもしないのに、ちょっとだけ構うんは…ヒデェよ?」と言った。
アレイスターは菓子をぱくつく犬とラビを交互に見返し、「そうは思わないであるよ」と返す。しかしラビは珍しく厳しい声で反論した。
「クロちゃん、そいつは今腹を満たしたら、この先に来る空腹がきつい。それをずっと満たしてはやれねぇだろ?
それに、世間様はオレらみたいな良い奴ばっかじゃ無い。一々情をかけて良いってもんじゃ無いさ」
どこか憎々しげに吐き捨てた彼に、アレイスターは淋しげに微笑む。
「出会いは、一つも偶然などでは無い。この犬が腹を空かせているなら、私は食べ物を与える。
私は…全ての者は何かしらの理由が有って出会うのだと思うから」
諭す彼に、ラビは、アレイスターが彼女を思い出しているのだと思い当たる。
「クロちゃんの、出会いって何さ?」
少年は、柄にも無く既に破壊されたものに嫉妬した。
「私の出会いであるか?
…先ずは、この世界、お母様とお父様に出会ったである。
そして、御祖父様。花達。
…エリアーデにも出会った」
アレイスターの瞳が潤んだ気がして、ラビは少しはっとしたが、彼が声をかける前にアレイスターはニコ、と笑った。
「少し前には、皆と………そして、ラビと出会った」
「クロちゃん」
きゅう、と犬が鳴いた。
アレイスターは菓子が無くなったのを見て、じゃあ、もう行くである、と立ち上がる。
犬はしばらくアレイスターの周りを回ったかと思うと、その前で座り、ふん、と鼻を鳴らした。
「元気で暮らすである」
アレイスターはもう一度だけその鼻の頭を撫でると、歩き出した。





彼の瞳に、暗い色が注す。
「……出会い?」
ふ、と犬の鼻先に手が伸ばされた。
ガゥッッツ!!
牙を剥く獣に、眼が射られる。
キュウ……
獣は身を縮め、街角へ。
「そんなもの、詭弁さ」

「ラビ?」

振り向いて自分を呼ぶ男に、笑みを返し駆け出す。
「……少なくとも、オレには」
その声は、誰にも届かなかった。

To be continued...?


後書

…暗っ

ブックマンという宿命を負った彼が歪む様は、酷く純粋な君に似合う。

up2007/3/12
 

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