Story

□さらさらと、ながれて、たゆたい。
1ページ/1ページ

貴方の髪に手を差し入れると、貴方は口の端だけを歪めて笑う。
至極冷淡な光を宿したままの瞳と余りに不似合いであり、それが又彼らしいと言えば彼らしい。
両手で耳の上際からそっと彼の艶出しでもしたかの様な黒髪に自分の指を潜り込ませ、そろそろと頭皮を撫で摩る。

「ダンナ?」

僅差ではあるが、私の方が背が高い。
故に彼は睨むように、いや媚びるように私を僅かに上目遣いで見詰めた。

「何であるか」

彼の猛禽類の様な鋭い眼光が私を射る。
それでも何故か両手を髪の中から抜く事が出来ず、私は弱く髪を握り締める。
さらさらと冷たく、しかし生きていればこその無温の温もり。
天然縮毛の有るぬばたまの黒髪に、私の手は吸い付いたまま離れない。

「ダンナ」

彼の声に色は無い。
私の事を呼んでいるのだと理解はするが、そのひんやりとした双眸にも艶かしい口唇にも私の手は移りはしない。

「……」

遂に口、咽頭までもが動かない。
私の身体は硬直し、只目だけが彼を捉らえている。

「…アレイスター」

「…ティ、キ」

彼の腕が私の首を捕まえ、ズ、と下蓋に添えられる。
そうして彼の全てに搦め捕られた私の頭は段々と自分の腕が飲み込まれている黒髪が縁取る端正な造りの顔に惹き寄せられ抱き込まれる。

「アレイスター…」

彼が甘い蜜の様な声で私の名を呼ぶので私はどうする事も出来ずにその罠へ堕ちて美しくも無い深淵へ沈むしか出来なくなる。

「アレイスター……」

彼の瑞々しい形良く弧を描いた口唇が先程とは違い優しさを感情を含んで半月にしなり、私を喰らい尽くす為に美しく飾られて待ち構えている。
そしてその上で冷たく熱に震える瞳が私の目を放さないままそっと長い睫毛を伴って閉じられた。
私の両手は既に黒髪を滑らかに通って彼の頭囲を廻り、腕はしっかりと彼の頭を抱き抱えた。

「      」

甘い吐息が鼓動に迫害される私の鼓膜に響いて震えを誘導し、そして又私の瞼を重くさせる。
彼の呼気が私の口唇を撫で上げるのでその様子を見ようと目を見張るが、もうそうしても見えるのは彼の若々しい綺麗な肌しか無く、私は仕方なく諦めて目を完全に閉じた。

fin


後書

淡々としたものが書きたかったんです。
そしたらこれに…。
大人同士ですからね、そんな甘くはなりません。

up2007/3/13

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ