Story]

□トラワレりぼん*
1ページ/1ページ

くるりと美しくカールした、銀色に輝くリボンを口に含む。本物よりも柔らかく華やかなそれは繊細な飴細工だ。
普段はきちり、手袋と皺などないシャツの袖に包まれる手は、今日に限って露わに動き回っている。
「すごいであるなぁ」
はあ、と優美にクリームを泡立てるその手を見詰めながら、クロウリーが溜息を吐いた。
「……そう思うなら作った端から手を付けるのを止めたらどうです」
ぎろり、鋭い目がボウルの中身から一瞬クロウリーへと向けられる。
「一つは私のものであろう?」
きょと、と目を丸くして首を傾げる姿に、リンクは呆れたように目を細めて作業に戻った。
ぱきん。
クロウリーの口元で、解けないリボンが段々と形を無くしてゆく。薄く均等に伸ばされたそれはほのかで優しい味を残し、舌の上でするりと溶けた。
いつの間にか残ったのは結び目の部分だけだった。ああ、手の平ほどの大きさだったのに、余りの儚さ。クロウリーはしゅんとした表情で呟く。
「勿体ない」
「自分でつまみ食いをしておいて」
間髪を入れない突っ込みは、クレープ生地を重ねる合間に投げられる。あう、と反論も出来ないまま、クロウリーは指の温度にさえ溶けはじめた故リボンの現結び目を、指ごと口の中に放り込んだ。
「……」
「…………」
「………………」
かしゃかしゃと、今度はチョコクリームを混ぜる音が響く。クロウリーは先程までリンクの手にあったボウルから余ったクリームを頬張りつつ、じっと作業の様子を眺めていた。
「……」
「……チョコクリームもおいしそ「ボウルはあげますから暫く黙っていてください」
取り付く島もない返答は怒気を孕んでいた。逡巡して、口を閉じる。甘いクリームはたっぷりと胸を満たすのに、決して重くはない。ふわふわと舌の上からなめらかに落ちていく。
「やっぱり、飲み込むのが勿体ない」
ボウルの端をかりりと引っ掻いて、クロウリーは口の中で呟いた。

「……こんなものですか」
ずらりとトレーに並べられたのは、リボンの鳥籠にとらわれた愛らしい茶色の小鳥だった。
それはあたかも今にも動き出しそうに思うほど細かく再現されていて、まるで菓子とは思えない。それでも納得がいかないのか、リンクはちょいちょいと生地に被せた飴細工の網や、小鳥が安らぐプレッツェルの枝を微調整しては眺めている。
「はぁ」
その隣で、リンクとは逆にうっとりと、クロウリーがその居並ぶ小鳥達を見詰めていた。
「凄いであるなぁ」
咎められていた無為な発言も、思わず口をつく。しかし作業が終わったからか、今回厳しい諌めはない。代わりにぶすっとした視線が贈られた。
「やっぱり、つまみ食いで済ませて良かったである」
冷たい目線を気にすることなくクロウリーは満足そうに笑う。
「こんなに素晴らしい作品を、崩して食べるのは忍びない!」
ニコリとクロウリーが一際大きく笑ったと同じく、ふ、と緩く吹き出す声がした。馬鹿ですね。芸術家の指が動く。
まだ薄く粉砂糖を纏った指先は、トレーの上を少しの間彷徨い、一つの鳥籠を取り上げて差し出す。
「……余分だからですよ」
わざとらしい台詞と共に、フォークがかたりとクロウリーの前に現れた。


fin


後書き

シリアスか鬼畜にしようかと思ったけど煮詰める時間がないのでただの甘になりました。一時間で書いた!/(^q^)\バカ!
しかし中身のない……くそ……。
あ、アレンは隣でチョコ塊を頬張りながら砂吐いてますふひひ。


write2010/2/14
up2010/2/14

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ