Story]

□暫しオ待ちを
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めくりあげた白いお腹、その中央右寄りに良く液体を染み込ませた綿球をピンセットで押し付ける。二、三度上下に擦りぬるりと皮膚が光ってから、今度はピンセットを大振りの刃が付いたナイフに持ち替え、


じゃぐ、


と、願を込めて振り下ろした。





「クロウリー、」
声を掛けると彼はめくっていた書類から目を上げ、こちらにああ、と笑みを返した。
隣、とソファーを指差せば、察し良く体を動かし、十分なスペースを空けてくれる。遠慮なくそこに腰掛けると、ようやく書類に書かれた文字とピントが合った。
「今度の任務の資料かい?」
「うむ、明日出発であるからな」
確認をと思って。
彼はわざわざこちらに向け直してから、パラパラと手に持った資料をめくってみせる。そうか、もう明日だったかな。適当に相槌を打ちながら、彼に自分で割り振った筈の任務内容を思い起こす。
「今度はアフリカの方だったね」
「ああ、あちらの方は始めてだ。……少し楽しみである」
「はは」
複雑な奇怪の内容は資料に記してあっただろうに、楽しみとのたまう彼はなんと無邪気なんだろう。脳裏が呟く。まるで任務の軽視にさえ思える台詞と態度。しかしそれすらも苦笑を伴って愛しいものに思えた。
「あまり任務自体も生じない地域だからね」
「そうなのか?」
彼が感心したように瞬きをしてこちらを見る。そう、と小さく頷いて見せてから、だからお土産よろしくね。と付け足した。
「お土産であるか……」
ふ、と彼が破顔して背もたれに体を任せる。
「何がいいだろうな」
ふむ、と手遊びをしながら何やら考え始めた彼と、任務先の国や地域についての話をぽつぽつと交わす。良く笑い、良く聴く彼の表情を、気付かれないようにつぶさに観察しながら、ゆっくりと時を過ごす。
「…………いた!!!」
その平安を切り裂いて、後ろから馴染みの声がした。
「あ、見付かった」
「え?」
「しィいーつぅーちょオぉー―――……!!!」
怒りを堪えた低い声が近付いて来て、不意に襟首を掴まれた。後ろから引っ張られるせいでぐっと息が詰まる。
「リーバー君、苦しい苦しい〜」
「アンタはまた仕事ほっぽらかして、何やってんですか!!」
ガミガミと始まったお説教に彼を見遣れば、苦笑混じりの優しい表情。それにじっと見入っていると、聞いてんですか!?とまたグイッと襟首を引かれ、仕方なく降参して万歳をした。
「はいはい、ごめんね!戻るから離してくれないかな?苦しいんだけど」
「ダメです!貴方は放したら直ぐさま逃げ出すでしょう!?」
「逃げないよ〜。もう、信用無いなぁ」
隣から遂に吹き出す声がして、リーバー君がようやく彼に目をやりすみませんと頭を掻く。
いや、と笑いながら緩く手を挙げた彼に、自分から仕方ないし戻るよ、と告げて立ち上がる。彼はああ、では。と笑いながら見送りをしてくれた。

ピッタリとリーバー君に横に付かれて歩きながら、笑う彼の姿を頭に映す。
あの笑顔が、どんな苦悶を描くのか。
帰還者の少ない地域から、果たして彼は無事に戻ってきてしまうのか。
「……何ニヤついてるんですか」
気味が悪そうに尋ねられて、内緒。と返す。手に残る、先刻までいたぶっていた肉と内蔵の感触。彼のそれはどんな風だろう。
「はぁ」
待ちきれないなあ、と溜息を吐きながら、僕は手をギュッと開閉した。

fin


後書き

普通かと思いきや地味な変態コムイさん。
最初は切り刻まれてるのがクロたんって事にしようかと思ったんですが、そんないきなり最高の瞬間とかつまらないな、と思いまして(笑)
アレコレ思案してる時が一番楽しいんですよね〜。という事で。


write2010/4/13
up2010/4/13

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