Story]

□苫枯
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言の葉が揺れて、立像を埋める。
変色しカサカサに枯れ果てた幾枚もの葉に埋もれ、懐かしいその面影は掻き消されていく。
はら、はら。
ひら、ひら。
鮮やかに腐り落ちた、イビツなひとひら。
柔らかな熱を発する病床で、全てを覆った葉の上で。
亡骸のように、眠る。眠る。眠る。










《苫枯》



木々の隙間から零れ落ちて来る凛とした日差しは、ゆっくりとした速度で煉瓦畳を踏み締める***の身体をまるでモザイク画の様に見せた。
青々と茂る初夏の若葉が、光を吸収しキラキラと笑う。ピチピチと小鳥が愛らしい声で鳴いているのが、何処からか耳に届いた。
「……快晴か、」
カツリと靴底が明るい音を立てる。向かう先まで、歩くには丁度良い陽気だった。
「腹減った!」
あーあ、と背伸びをしてみれば、低い梢に指が触れ、***は顔を天に向けた。さらりと燃える様なオレンジの髪がゆれ、眩しい光から視界を守る。
幾重にも重なり合ったとりどりの緑は、そのオレンジの奥に見える深い彩りと、酷く似ていた。
「……ホント、良い天気だな」
意識せぬままに***の足が止まり、口唇から小さく呟きが漏れる。一陣の風はその体を後ろへ押し戻すように吹き抜けて、髪や服をばさばさとはためかせた。
「何をしとる」
不意に、前方から声が掛かった。***ははっとして顔を戻し、鋭く現実に引き戻した人物の瞳を捉える。***よりも大分低い所で光るその眼光に、ぴり、と気取られない程の緊張が背中を駆けた。
「や、何でも」
へら、と平静を装って笑い、***は近くの枝先をへし折り手にする。
「腹減ったなー」
はぁ、とわざとらしく溜息を吐いて、折り取った枝先はその口唇にくわえられた。
その様子を、若干間の開いた道の先でじっと見詰めていた小柄な老人は、***が挑むようにその目を見返して来ると、漸く身を揺らした。
「飯は?」
「次の町でな」
「えー餓死しちゃうって」
「勝手にしとれ馬鹿者」
軽やかなやり取りの間に、***は開いた間を大股で詰め、老人の横に立つ。再び隣り合う様にして歩き出した二人からは、自然と会話が消えていく。
また、歩く音と風の声、葉の囁きと小鳥の歌が、朗らかな陽気を彩る。口唇に挟んだ枝先は、早々に手に戻り、くるくると葉を躍らせていた。
「――――ラビ」
老人が、静かに声を発した。***は横で手遊びをしながら、歩き続けている。そこにあるのは否定であって、投げられた名を受ける者は居ない。
「……引っ掛からんかったか」
目だけで***を見上げた老人の言葉に、***がまあね。と意図を見透かして答える。
「オレも成長してるし?同じ轍は踏まないの」
「ほざくな、未熟者が」
ふ、と老人が口端だけで嘲って、***から目を離した。
「…………、」
ざあ、と、戻る事の無い場所へ、風が殺した言葉を運ぶ。

fin


後書き

微塵も!出てないけど!一応!ラビクロと言わせてくれ……………!!!!!!!
強いて言えば一番最初の「立像」と最後の「殺した言葉」がそれっぽいでしょ!?ね!!??(必死)
何かラビに付いては言いたいこと一杯有るんだけど(言葉では)言えないんだよなぁ……。
あ、タイトルは「とまがれ」です。


write2010/4/14
up2010/4/15

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