Story]

□黒装、うち、秘めたるは真珠
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黒いそれに包まる様にして、深く眠る彼を見詰めていた。
ベッドの上に不自然な迄に真っ直ぐに横たわった肢体。若干好く人を選ぶだろう恐ろしげな顔立ちからは想像出来ないほどに、その躰躯はティッキーとは違った意味で美しく均整が取れている。
「可愛い」
細く白い首元をつうっとなぞると、表情は安らかなまま、彼の喉元だけがヒクリと動く。それを見ながら手にしたグラスを傾け、甘いワインを口に含んだ。
赤い雫が、喉を潤しながら胃に落ちる。
「確かにこれなら、ティッキーがご執心でも仕様無いかもねぇ?」
誰に訊くでもなく呟いてみる。起きないのは判っていた。方舟の中ではジャスデビを気配だけで追い詰めたというのに、今僕がこんなにも側に寄り、馴れ馴れしくもその肌に触れているのに、尚起き上がることがないのだから。
調子に乗って、今度は指先ではなく、手の平でその平たい胸を撫でる。透き通る肌。ほど好い筋肉。小さめの突起。張りのある手触り。思わずするすると手を滑らせ、露わになったままの陰毛に触れた所ではたと意識した。
「……あらら」
これはいけない。
再び上半身へと手を滑らせて戻しながら、成る程、と納得する。ワインをもう一口。彼に乗せたままの手を、口唇まで動かす。
薄く、色味の無いややかさついたその皮膚を、何度か撫でて、そっとキスを落としてみた。
「お父様ァ」
口唇を離したその時、背後でドアが開き愛らしい声が聞こえた。
「ロード」
振り向けば素晴らしく可憐な夜着を纏った天使が、僕とベッドに横たわった彼を見て、あー、と妖しい笑みを浮かべる。
「なぁにィ、それ?」
パタパタとゆっくり歩いてやって来ながら、ロードはクスリと僕達を交互に見遣った。
「ちょっとご招待したんだよ」
ベッドの縁に肘を突いて、大きな瞳が彼を映す。その視線は僅かながらも熱を帯びていて、僕は思わず羽のように軽い愛娘を膝に抱き上げる。
「ティッキーにはナイショ?叱られちゃうよぉ?」
「そうかもねぇ」
僕の膝の上でクスクスと悪戯っぽく声を上げながら、ロードが彼の頬に触れる。二回、上下に動かされた桃色の指先は、あっさりと離れて僕のシャツを掴む。
「アレイスターをどうする気ィ?」
宝石よりも美しい眼が、こちらをじっと見詰めて問う。そのきらりと輝く瞳の上にそっとキスを落としてから、何もしないよ、と告げた。
「ホント?」
「うん、もうすぐ帰してあげるよ、今日の所はね」
ふうん、と満足そうな笑みが、整った顔に浮かんで、なら良いや、と呟く声が聞こえる。
「あ、忘れてたァ」
お休みのキスして?堪らない表情で小悪魔が僕の首に腕を絡める。そのために来たんだね、と僕は今更ながら頭の中で納得して、勿論いいよ、とさらさらの髪を撫でた。
小さなリップ音を立ててほんの一瞬付けた口を離し、お休み、と柔らかな体を一度強く抱き締める。
「ねェ?……お父様と僕のヒミツだね」
膝から跳ねるように降りて、再びベッドの上を覗き込んだロードが楽しげに首を傾げて振り向く。蕩けそうな位可愛いその笑顔に、そうだね、と頬を撫で、もう寝なさい、と促す。
「はぁい。アレイスターもお休みぃ」
鈴のような声で良い返事をくれた後、ふふ、と無垢な笑みを浮かべながら、ロードは彼の額にもキスをすると悠々と部屋を出て行った。
その姿を、夜着の裾が完全にドアの向こうに消えるまで見送り、ベッドに視線を戻す。
「……さて、と」
薬が切れる前に、お帰り願わなきゃね。
僕とロードからのキスに彩られた、その白い顔を撫でながら一人ごちる。そんな自分の声の中に、少しの名残惜しさを見付けてふふふ、と笑いが漏れた。
ティッキーのお気に入りが、一体どんなものか確かめたかっただけだったのに、とんだ掘り出し物だった。
僕は彼の下で皺くちゃになった、敵を表す黒い衣服に手紙の代わりに業とワインを一滴垂らし、残りの甘く馨しい紅い滴りを、ぐい、と完全に飲み干した。

fin


後書き

ふーむまだイマイチよく掴めてないのう。
シェリルさんは多分クロたんにストレートな興味は抱いてくれないと思う。のでティッキーの名前を出してみた。
いやしかしロードはほんに可愛いのぅ。


write2010/4/18
up2010/4/18

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