Other's storyU

□マリア×マリア
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「久しぶりね」
私を見上げる様にして、彼……彼女は明朗に笑った。

《マリア×マリア》

「ああ……元気、そうで…良かった」
言った後に、少し素っ気なかっただろうかと思う。咄嗟に上手い言葉が見付からないのは昔からだ。けれど、それを補うこともまだ出来ずにいることがもどかしかった。
それを知ってか知らずか、彼女はエレベーターの柵にもたれるようにして、アナタも。と嬉しそうに言い、私を見上げていた。いつもと変わらないその様子を見て、胸を撫で下ろす。
「ねェ、今日もアタシの話、聞いてくれるかしら?」
ああ、と愛想のない返事を返せば、にこりと愛嬌のある笑みが返る。
彼女の口から流れ出るのは、さまざまな物語。食堂での出来事、恋の噂、人の入れ替わり。
私が見ることの出来ない、明るく照らされた物語。
私はただ相槌を打ちながら、古い記憶の端を手繰り寄せ、その光景を夢想した。
人に溢れかえる明るいホール。並ぶ机と椅子は簡素ながら、大事に使い込まれている。人々の歓談の合間には、火の揺らぎや銀食器の煌めきが映える。笑い声、安息、一時の弛緩。
そしてそれを供する彼女の、楽しげな姿。
私の浮かべる人々に顔はない。相応しい人々に、私は長らく会っていない。だからか、想像では、彼女が一際目立って思われた。
彼女の口から、切ない恋や驚きのアクシデントが語られても、私の中ではっきりと理解できたのは、時に泣き、時に笑う、優しく逞しい彼女ばかりだ。
私の使命に関知しない彼女は、したたかに可憐に、彼女の使命を全うしていた。
「……ありがとね?」
ふと、彼女が連なる言葉を切り、そう呟いた。
謝りに程近い声に、私は少しだけ息を詰め、意を沈めるよう聞かなかったふりをする。

この場所を、選んだことは。この役割に選ばれたことは、もはや苦悩の元としての役割を終えていた。私は始まりとして、そして終わりとして、逃げることも向かうことも出来ずに、ここにこうしてありつづけるのだろう。
遠い話でしかない、始まりにしても、終わりにしても。彼女は私より遅く在り、このまま戦いが続くなら、私より早く、失くなるだろう。
私は、私として責任を全うしていかねばならない。

それでも、彼女はやはり私に笑い、語り、何故か呟くのだろう。悠久の中の刹那でも、互いに齟齬を感じても。
私はそっと「指先」を伸ばし、彼女に触れる。交わらない命を抱えて、それでもなお私は彼女を愛しく感じ、彼女も恐らく、私を慕い。
「ヘブ、ラスカ、ねぇ……」
「いつか…わたしも……。
ジェリーの、料理を、食べたいな……」
私たちは、こうして密やかに交わって離れてゆくのだろう。

fin


後書き

ヘブジェリ!いばらみち!
人としてのヘブラスカ、女としてのジェリー。
性別というかなんか色んなものを踏み砕いて、とりあえず仲良し的な。


write2011/8/26
up2011/9/6

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