Other's storyU

□ツクヨイ
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つまびかれたのは貴方の心臓。どうかこの手で貶めてください。

《ツクヨイ》

そろり閉じた扉へ、私の後ろでかちりと錠が落とされた。外に立っている警備の仲間が、また重く錆び付いた鍵を逆に回すまで、私がここから出ることは二度と叶わない。
「来なさい」
けれどもそれは、私に対する至上の命令であり、私の望みでもある。だから、何も問題などない。
私は羽織っていたのみの衣服を捨て、四つん這いになり黒くしなる革に舌を這わせる。
「美味しいかね」
はい、はい。
鼻腔を突く油の香りに深呼吸をする。たっぷりと靴墨を付けて、私が毎朝磨き上げる爪先。それが戯れに、笑う私の鼻面を蹴り上げる。
つん、と込み上げる痛みと熱。口唇に鉄の味が滲んだ。ぱたりと興奮のせいともつかない鼻血が落ちる。
「おや、床が汚れてしまったようだ」
掃除をしなさい。
有無を言わせぬ要請に、愛しい影の落ちた大理石にキスをした。そのまま、畏れ多くも舐め回す。
ぴちゃりぴちゃりと賎しい音が響く。唾液に濡れた爪先が組み直され、私は見えた靴底と床を往復して清め汚す。
「全く貴方という には虫酸が走る」
床がぬめり、この涌いた脳みそが茹で上がる頃、はっきりと優しい声に罵られた。
光栄です。
浅ましく、ぽたりぽたりと汁を垂らし、私の張り詰めたいきりが返事をする。
「止めなさい」
這いつくばったまま、口を閉じる。冷たく痺れた口唇と、埃まみれの甘い舌。堪らずに仰ぎ見る。仕置きでも、貴方から頂けるのなら本望。

「……私の可愛い 」

あ、
あぁ。
ぞくりと背中が粟立ち、全身が熱に溶けはじめた。床に飛び散る私の汚液が、跳ね返って太股につく。
目尻から流れはじめた何かは、酷く熱かった。
ゆったりと椅子に腰掛けていた麗しい体が屈み、私の顎に御手が添えられる。
「貴方は、本当に狂っている」
はい。
何故か悲しげに私の頬を拭う、太い指先にしゃぶりついた。私は暴走する。蹂躙する。大罪を犯す。赦しを与えられてなお、それが無意味になるほど、私は汚れている。
塵一つないジャケットを丸め、糊のきいたシャツを裂き、あらわになった白い鳩尾に口付ける。
口唇に、肋骨越しの静かな鼓動が響く。
「好きにしなさい」
躊躇いさえ見透かされ、私は最後の一片まで理を捨てた。
この肌を、この身体を、この人を、貴方の全てを。
愛していますと崇めさせて下さいと嘗め回しながら、撫で回しながら乞う。
私は貴方の物です。劣情にたぎるこの体も、慕情にたわんだこの思考も、全てを貴方に捧げます。ですからどうか。

「お赦し下さい」

私の神よ。

fin


後書き

うわあ……(ドン引き)
リンクが普通にメンヘラで困る。
二人が共依存だったら笑けるなぁ。
所々にあるスペースには「狗」とか「鴉」とか「罪」とかアレな単語を入れればいいと思います。


write2010/4/5
up2010/4/5

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