Other's storyU

□マー★マー★マー★
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苦し紛れに腕を抱きしめて、ラビは「待った!」と声を上げた。
瞬時に脳まで染み込んで来る体感情報。鼻をつく汗の臭い。成長期も終わりかけた筋張った体。ぬるり、と合わさった二人の腕は汗で滑り、不快感を際立たせる。間近に寄った両者の顔は歪み、間でばちりと視線が交じる。
(気持ち悪ッ)
ラビは、首筋に立った鳥肌を感じながら、しかして引き攣った笑みを作った。考えるのはこの状況の結末である。今腕を離せばどうなることか。きっと、神田の事だ……。
どうにか軟着陸を目指し、掴んでいる腕の主に再度声をかけようと、ラビは口を開こうとした。それと同時に、
「誰が待つか」
無感情そうな声でそう告げながら、神田はブンッと腕を振り、あっさりとラビを横へ跳ね飛ばした。そしてそのまま、バランスを崩して倒れゆくラビの腹をついでとばかりに蹴り上げる。
ラビの目が真ん丸になる。くの字に曲がった体は軽々として見える。それはまるでスローモーション。
神田のさほど固くはない屋内用の靴の先が、ぐにゃりとした内臓を確実に捕らえた。
「う」
「あ、」
「ああっ」
「ラビー!!」
二人のじゃれ合うような、……半ば一方的な鍛練を微笑ましく見ていた三人―マリ、ミランダ、クロウリーは、ラビの小さなうめき声とほぼ同時に、据えていた腰を一斉に浮かせた。
「ラッラッラッラビー!」
「きゃあああラビ君ッー!!」
三人が飛び出したのは、ラビが倒れ伏したのとまたもほぼ同時。固く冷たい床でぴくりともしないラビ。先に駆け付けた二人は、ぐったりと白くなっているラビに泣きそうな声を上げた。
半歩遅れて、マリはうろたえる二人の横から割り込み、ラビの上半身を抱え起こすと、すっと目を細めてラビの無事を確認した。跳ねるようなしっかりした心音が、背を支える腕からも十二分に伝わってくる。ほっとした顔を一瞬見せ、しかしながらマリは直ぐ、珍しくも神田をキッと睨み据えた。
仁王立つ神田とマリの間に、火花が起きた気がした。
「ラっ、ラビぃ……死んじゃダメであるぅう……!」
「ああああラビ君しっかりしてぇ……!!」
場の温度が下がる。
「神田!少しやり過「ぅっぷぉえろろろろろろ」うわぁああああ!?」
「!!きゃああぁぁ!?」
「うわぁぁぁぁぁぁ!!!」
「げっ」
がくりと倒れ伏したラビにそれぞれ駆け寄った優しい三人。だが、ラビの口からの奔流で、心配する声は直ぐに悲鳴じみた。溢れる饐えたソレのその勢いに、事態の根源である神田すら上半身を引いて後退る。辺りには苦酸っぱい悪臭が漂い、吐き出される内容物によって緩急をつけながらも、嘔吐が止まる事はない。
体はマリに預けたまま、ラビは半ば食材の原形を残した半固体を、胃が空になるまで吐き出し続けた。


――しばらくして。そこには小言のタイミングを失い、静かに元マーライオンの背中を撫でやるマリがいた。吐き始めてすぐ、クロウリーとミランダはそれぞれ医務室と掃除用具室へと駆け出したが、まだ戻って来る気配は感じない。ということで、移動はしたものの、マリ達はまだ異臭の残る修練場にぽつり残っていた。
「……うぉェ、」
「!!大丈夫か?」
「ら、らんとか、ぇいきさ……もう出すもんない……はは……」
「……」
「はながにがい」
マリはポンポン、と二回、半死半生のラビを弱く叩くと、また優しく背を撫ではじめた。
神田が、それを見ながらパチパチと瞬きをした。

fin


後書き

/(^q^)\なんだこれ
どんなオチだ\(^q^)/


write2010/10/1
up2010/12/22

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