Story11

□RoMpeR Room
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椿の花、落ちる如く。
それは呆気なくぽろりと零れた。私は狭まる視界でそれをしかと眺め、ああと納得の声を口の中で踊らせ、そして垂れる血を拭った。
「……反応うっす」
相対する場所でぼんやりこちらを見詰めていたティキが吐き捨てる。
瓦礫同然の教会は、奴が掛けている門柱のみ不思議なほど傷なく聳えていた。
風が、私の頬を伝う血をぱたぱたと地面へ運ぶ。随分と風通しが良くなったものだ。辺りをざっと見回せば、今朝までは活気に溢れていただろう町並みは、無残という言葉さえ冗句のような有様であった。
「は」
口を吐いた笑いに、こちらの出方を窺うように微動だにしなかった奴がぴくりと体を揺らす。
「また、見事にやったものだな?」
「ああ……ね」
足を組み直し、ティキはにこりと笑みを見せた。
「ダンナのために、頑張っちゃった」
「迷惑なことだ」
くつくつと喉が鳴る。からからと煉瓦の破片が足元を遊ぶ。奴の笑顔は首を傾げる仕種に合わせ斜に歪み、私は口を開けて哄笑する。
「変わったな」
髪を掻き、肩を鳴らす。
「そう?」
奴の姿が暮れ始めた空に影を落とす。
「ああ」
足元に転がっていた布人形を蹴やる。
「自分では全然わかんないね」
きらり、奴の瞳がありもしない光を反射する。
「そうか」
乾いた口唇を嘗める。血の味。
「ダンナは……どっちの俺が好き?」
クスクスと笑い、奴が立ち上がる。
「どっちも胸糞が悪くなる」
嗤う。
「ひっど」
笑う。
「だが」
「んー、?」
「今の方が面白くやれる」
頬を拭い落ちた左目を踏み潰し飛び出す。一度に眼前まで迫ったティキの笑顔はやはり歪んだもので、私を抱くように差し出された手から伸びた黒い触手は奴の首を掻き切ろうとした私の左手を取る。
咄嗟に右手で絡む三本の帯を掴めば、その隙に私の腹に奴の脚がめり込んだ。小さく舌を打ち、放した右手でその大腿を浅く引き千切る。すぐ慌てたようにしゅるりと左手が自由を取り戻し奴が跳び退る。
ざ、という音を立てて、凹凸する瓦礫に器用に降り立ったティキは、瞳孔を怪しく開かせてこちらを見上げた。
「……ふ、はは」
手の平に残る奴の小汚い肉を投げ捨て、汚れた手袋を口で押さえ引き脱ぐ。
口に拡がる奴の甘い体液に笑いが込み上げ、私は柱の上でズクズクと鼓動する空いた眼窩をなぞる。
「……ダンナ、?」
奴は奴で、刔れた大腿をそろそろと愛撫しながら私を見詰めている。
「は、これは、可笑しい、」
背筋を這う狂気。私は笑いながら奴に飛び込む。奴は爛々とした瞳で私を迎える。飛び散る、紅と紅。肌と肌を刔り、切り裂き、毟り合う。睦ましい交わり。幾重にも折り重なった死体と瓦礫。その上の享楽。
愛し、愉し。
「はは、ははは」
人ならざれば厭わぬ。
「ははは!」
獣として、戯れよ。

fin


後書き

破壊願望!
いやうん冒頭の一文が書きたかっただけ。


write2010/7/8
up2010/7/21

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