Story11

□イキツキルまデ、アイシてル
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聞き尽くす話し尽くす眺め尽くす嗅ぎ尽くす触れ尽くす繋がり尽くす愛で尽くす壊し尽くす舐め尽くす食べ尽くす知り尽くす覚え尽くす。
飽きる。


《イキツキルまデ、アイシてル》


どれだけこの目の前に残った白い残骸をかき集めて味わえば、この頭はヒトを理解するのだろうか。今度こそ、と何時だかに取った手は、今はもう形さえ無くして胃の奥底に眠っている。この手の平に触れた、冷えた皮膚。内側から染み出す熱。あの黒い手袋越しに確かにあると「思った」ものはなんだったのか。既に思い出せずに、ぼんやりと床に溜まって乾ききった赤いものを眺め下ろす。赤い赤い、黒い、あの痛々しいまでに優しさを湛えた瞳のような。
指でその赤に触れれば、ざらりと粉状に崩れた。その脆さに、見失ったものを重ねる。指先から零れる、逃げる、失くなる、それはどんな形で、どんな色で、どんな数値で表すものだったか。欠片も思い出せなかった。
「ならきっと、記録してない、だけ」
この残滓の中にそれは残っているだろうか。床に顔を近付け、舌を突き出す。舐め取れば冷えた床から鉄の味。舌の通った場所から、紅白の欠片が消える。
一片も一粒も一ミリも一抹も残さないように、舐めて、這って、あのヒトの一部を。
それでも。
思い出すことも、記録することも出来ない。
舐め上げた床は、熱を知らず、冷たく固かった。
また失敗してしまった、と溜息を吐いた。幾度機を逃しただろうか。一度たりとも記録しきれていないものへ、嗚呼と悔恨の意を込めた感嘆を漏らす。ヒトがもつそれ。触れた瞬間に、交わった瞬間に、確かにそこに、そのヒトの中にあると「思う」のに、どんなに調べ尽くしても、挙句全てを取り込んでみても、これまでにそれを見つけられたことがなかった。もはやその存在さえも疑いたくなるほどの無駄骨に、「思い」などやはり役に立たない、と悪態をつく。
何度も何度も、口にした言葉は口にした肉には見付からない。
「……終わったか」
背後から掛かった声に、仕方なく肯定を返した。もうここで出来ることは何もなかった。
聞き尽くし、話し尽くし、眺め尽くして、嗅ぎ尽くした。触れ尽くし、繋がり尽くし、愛で尽くして、壊し尽くした。舐め尽くし、食べ尽くし、知り尽くして、覚え尽くした。
それでも、また。
「……なぁ、何が悪いんかね」
立ち上がり横に立てば、そしらぬ素振りで歩き始めた小さな背中に尋ねてみる。ヒトのそれはドコにあるのか、どんなカタチなのか、どんなモノでどうすればテに入るのか、きっとこの背中は知っている。
けれども答えは戻らない。離れすぎないよう、追い越さないよう、ゆっくりと追いながら思い出す。
アレイスター。クロウリー。三世。12月1日生まれ。AB型。28歳。190センチ。77キロ。ルーマニア人。エクソシスト。寄生型。生い立ち。姿。仕種。思考。好み。身体。熱。固さ。味。終わり。終わり――――
「……『想い出』にしか、見付からないんさ」
そんな、笑えるほどの失言には。未熟者、の檄さえも飛ばなかった。

fin


後書き

久しぶり過ぎて書けねえああああああ!!!!!(泣)
うん、とりあえずあれだね。カニバ美味しいです^^


write2011/1/13
up2011/1/14

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