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□愛死
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最初で
最後の
最大の禁忌を犯そう

  《愛死》

オレとクロちゃんは、教団の屋上にいた。
ガンガン吹き上げる風に、マフラーと髪が、マントと前髪が靡く。
「高いな…」
「うん」
クロちゃんは初めて来たらしい。
オレは結構来ていて慣れているけど、彼は柵から外を覗いて、ひょわ、とかわゆい悲鳴を上げた。
「怖い?」
「…少し」
「大丈夫さ」
オレも一緒にいくんだから。
そう言って、ニカ、と笑うと、クロちゃんもニコリと微笑んだ。
「じゃ」
「うむ」
オレの右手とクロちゃんの左手が繋がって、オレは逆の手で槌を握る。クロちゃんにも、右手で槌を掴ませた。
「伸」
手を繋いだまま、二人で空に発つ。
高い柵を柄が越えたら、クロちゃんがぽそりと「相対死」と言った。
「心中、のがポピュラーじゃね?」
そう返すと、そうであるか?と困った顔。
「情死、とも言うさ」
空が今にも泣き出しそうだった。
いや、いつもの事。今更そう思うのは、多分。
「情、であるか」
「…そんな刹那的じゃねェって、俺は思う」
ずっと、が、今、に変わるから。
「…愛しているである」
「愛してるさ」
少しだけキスをした。
震える口唇と、冷たい口唇で。
そっと。
     そっと。
「じゃ」
「うむ」
いこうか、と二人で手を放す。
この終わりに、キチンと終止符が打たれるのかはわからない。
クロちゃんがきちんと終われるのか、オレの後釜が現れるのか。
それでも、こうする事が、今出来るずっと二人でいるための最後の希み。
馬鹿な希み。
落ちていくのはたった30秒位なのに、オレとクロちゃんは今までより、出会ってから今までの間よりもずっと、ずっと長く見詰め合っていた。
(愛してる)
(愛している)
最初で最後で最大の禁忌を。
(貴方と一緒なら)
(構わねぇさ)
さぁ、今愛死せん。

fin


後書き

相対死=情死=心中
どっかで《アイシてる》っつう表記があって、漢字変換が愛死で、意味を考えてみたら情死の別名っぽいなぁと思ったことから派生した話。
相対死っつーのを国語の授業で見て使いたいと思ったのもあり。
暗ほのぼの、と分類分けしたいです。
愛死は造語だから使うと恥かきますよ(´ゝ`)


write2007/2
up2007/3/19

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