Story U

□。共に歩き共に与ふ 。
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本当は、死を望んだ。
赤い炎が全てを焼く中、私も地に還る事を希んだ。
止まった涙はどこへ云ってしまったのか、わからないほど遠くに思え、もう泣き喚くことも叶わない。
「……エリアーデ…」
もういないのだとわかっていても、呼ばずにはいられない。
耳元で、ぱち、と花が爆ぜる。
私の気持ちを察するように、彼女らは暴れることもない。
「すまない…」
誰に謝るのか。
私は炎の染み付いた目蓋の裏を見ようと目を閉じた。
『何謝ってんのよ』
ぱしっ。と頬が叩かれる。
「…!エリアーデ!?」
慌てて目を開くと、エリアーデが立っていた。
私と生き、私に殺された美しい女性。
私が慕い、私を慕った、只唯一の―――
『何死のうとしてんのって、言ってるの』
いつもは使わなかったぞんざいな口調。でもしかし、エリアーデは立っていた。
『私を倒しといて、何死のうとしてんの、バカ』
「しかし私はっ…エリアーデが居なければ生きていく気にもなれないのであるっ…!」
瞬く間に涙が零れる。――まだ、涸れてはいなかったようだ。
ふ、とエリアーデが笑う。
『…なによ…そんな告白するなんて、今更遅いわ。
だからバカって言われんのよ…』
「私をバカと呼んだのはお前位であるっ…!」
『これから言われるわ』
「私はここで死ぬ…!これからなんて『あるの』
ぴしゃり、と頬を挟んで、見つめられた。炎が映り込んでいるのか、本当に潤んでいるのか、エリアーデの瞳が揺れている。
ああ――美しい生き物なのだ。彼女は。
『あんたは生きるのよ。私を倒したんだから、生きて生きて生き延びるの。
私以外には、あんたを殺す権利なんてないんだから』
「…私にもであるか?」
『そうよ』
ふ…と笑うと、エリアーデは少しだけ目付きをゆるませた。
「ずいぶん横暴な…」
『…あなたは私のために生きる義務をあげる。
交換よ。横暴なんかじゃないわ』
それに、とエリアーデは続けた。
『あたしはあなたの中に居るから…』
額に触れるだけのキス。炎に差した影はエリアーデ。
母から子へ贈るような慈しみの、愛しさの、朽ちぬ想いの込もった――
―――愛してる、アレイスター
幽かに空気を揺らして、エリアーデの声がした気がして――――――――
エリアーデは消えた。
ぱち、と耳元でまた花が爆ぜた。
「…夢?…幻、であるか?」
でも、確かに、そこに居たと確信があった。
そして、エリアーデは私の中に居るという確信も。
「―――私も愛している」
呟いて、立ち上がる。
生きるのだ、私は。
そうして、いつかまた――――

城を出ると、アレンとラビが私を見てすごい顔をしていた。
驚きと安堵と不安が混ざった顔。
「はは…何であるかその顔は。死んだかと思ったであるか?」
大丈夫、生きていく。
新しい仲間と、新しい世界。
中に居るのだろう?エリアーデ。聞こえているであるか?
私は、生きていくである――――――

fin


後書き

五巻の城から出るとこ。
…アレンには申し訳ないがあれだけで行く気になったとはどうしても思えず、書いたやつ。
エリアーデはアレイスターを、アレイスターはエリアーデを只一つの糧として生きていたんだと思います。


write2006/12月
up2007/3/21

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