StoryV

□は る は る 小 晴
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「あ、紋白蝶である」
「本当だ!」


《 は る は る 小 晴 》


「春ですねー」
アレンは近くに咲いていた菜の花を摘み取って、日に翳す。
「そうであるなぁ」
クロウリーはちょうど目線辺りに持って来られた黄色に、目を細める。
くるくると指先で器用に回る春に、澄み通ったあおい空が良く似合った。
「あ、土筆も!」
「向こうにスミレも咲いていたであるよ」
二人は畔に咲く春たちをそれぞれ手にしながら、ゆったりとした速度で歩いていく。
その間も、大地には花が咲き誇り、風に甘い匂いを含ませる。
周りに人気はなく、蝶や蜜蜂たちが花粉や蜜を集めるために暖かい日差しの中を飛び交っていた。
うららかで、静かな道の上。
「この辺りは春が長いんですね」
「住み易そうであるな」
「長い時間旅生活してましたけど」
「うむ」
「ここは良いところですね」
「…私は余り余所の事は知らないが」
「はい」
「アレンと同じ意見である」
「…はい」
クロウリーは右手に摘み取ったなずなやすみれを左手に持ち替え、そろそろ戻るである、とアレンに呼び掛けた。
はい、とアレンも右手に花を持ち立ち上がる。
「……行きましょう、か」
「…うむ」
歩き出そうとしたその時、アレンがあ、と声を上げた。
「どうかしたんであるか?」
「クロウリーの髪に」
天道虫。
アレンが笑った。
クロウリーがそっと右手に移して指を起てる。小さな赤はそこを伝い、先端へと進む。
「……」
「……」
足を留め、見入る二人を他所に、天道虫は二・三度翅を広げ、高く高く、名の通りに飛んで行った。
「「あ」」
段々小さくなる天道虫の影を二人が目で追う。
そうして、その姿が全て空のあおに溶けてしまったのをじっと確認してから、アレンとクロウリーはお互いに視線を向けた。
瞳に写る、花を抱えた愛しい相手。
宇宙さえ透けて見えそうなあおに、素晴らしく映えるその姿。
「…………」
「…………」
「………クロウリー」
「……何であるか、アレン」
「…手、繋ぎませんか?」
「!…う、うむ」
「じゃあ、はい」
アレンが差し出した左手に、クロウリーの右手が遠慮がちに重なる。
アレンがギュッとその手を握ると、クロウリーも優しくそれを握り返した。
「…ふふ」
「…な、何を笑ってるんであるか」
「クロウリーが真っ赤だからですよ」
「な…!」
「可愛いです」
「…アレンも、赤いである」
爽やかな風が、二人の髪を揺らして吹いた。
手の中の花から幾枚かの花弁が宙に舞う。
手を繋いで歩きだした二人は少しだけ照れ臭そうで、けれど紋白蝶は構わずに二人の後ろをふわりと翔けていった。

fin


後書き

リク企画第一弾〜!
シゲ様より「ほのぼのするアレクロ」でしたvV
ってかいや、あの、これほのぼのします?アレもクロも精神年齢低すぎる気が……まぁアレンはあれだけどクロちゃんは良いか。(ちょっと待て

ちなみに天道虫は夏の季語です(爆)

シゲ様お題有り難うございましたvV


write2007/4/28
up2007/4/28
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