StoryV

□―――秘やかに
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私は知らない。
何にも知らないんです。
あなたの過去なんて、あなたの想いなんて。
出会ったときの見惚れてしまうような笑顔も教団での穏やかで温かい時間も、あなたが何かに遠くを見るたび(私の知らない何かを見るたび)、あなたが誰かを呼びかけるたび(私の知らない誰かを呼ぶたび)、私はあなたの事を爪の先ほども知れてはいないのだと痛感します。
…覚えていますか?私が怪我をしたあの日。
私があなたを傷付けてしまったあの日のこと。
戦闘のさなか限界を越えた一瞬、避け切れなかった攻撃をあなたが身を呈して守ってくれたあの時。
小さく叫ぶ私の前に翻る団服の黒。衝撃に舞い起こる風に、私の邪魔な髪が靡き、落ち着くまで、何が起こったのか理解できずにいて。(私は庇われるなんて微塵も頭になかったのです)
慌てて用いたイノセンスの中、私の腕の中で、ほんの短い昏倒の間にあなたが呟いた女性の名。
私の、知らない、女性の、名。
誰なのだろうと、あれから幾度も考えました。
けれども無知な私にそれが誰かなんて分かる筈もなく、ひいてはあなたの口から聞くことなど夢にも叶わないのです。
あなたが…いつも見ている先には、あなたがいつも呼ぼうとする相手には、その女性が笑っているのでしょうか。
それならば、あなたに私を見てもらうことは叶わないのでしょうか。
私なんて、目の前にいるだけ。ただあなたの視界の隅にいるだけしか出来ないのです。
あなたが想う女性は、どんな人なのですか?
アレン君のように、優しい人?
リナリーちゃんのように、可愛い人?
ラビ君のように、明るい人?
それとも、神田君みたいに端麗な人かしら。
私にわかるのは、それがどんな人でも私とは似ても似つかないような素敵な人なのだろうということだけ。
あの時でさえ、私の名ではなくその人の名を呼ぶくらいに。

『エリアーデ』

エリアーデ、さん。
あの人が愛してやまない人の名前。
綺麗な名前…。名は体を表すというけれど、あなたはどれくらい綺麗な人なのですか。
きっと、優しくて、可愛くて、明るくて、端麗で……。
あの人に釣り合うくらい素敵な方なのでしょう。
ああ、私が鈍臭いことは自覚していたけれど、こんなにとは知りませんでした。
あなたに出会ってから、この胸はときめいていたというのに。
この目はあなたの姿を追っていたというのに。
…あなたの想いを知って気付くなんて。
やっぱり私は、鈍臭いですね。

…いつも通りの生活の中で、あなたの視界の隅にいること。
あなたの想いの側で、あなたを想うこと。
それが、何も知らない鈍臭い私が、あなたを好きであることの表現です。

fin


後書き

2000ヒットキリリク
華夢維様 クロ←ミラ悲恋系
でした!(華夢維様ありがとうございました!)

はい、懺悔します。
難産でした。かなり難産でした……!
なんか似たような打ちかけが下書きフォルダに大量にあったりします…。(爆)
最初三人称だったのが、クロ目線を経てコレに…。……そして結局文中で名前が出たのは問題の二人以外という。(もう何がしたいんだというな…)
う…V○| ̄|_
あ、華夢維様のおっしゃってたシチュを少々お借り致しました★ありがとうございました!


write2007/5/27
up2007/5/27

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