Other's story

□白磁
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ほのかに血の気の引いた白。優しい色の陶器。
お母さんが特別な日にだけ取り出したあのお皿。
届き様の無い場所に仕舞い込まれたあの宝物。
アタシには受け継がれないモノ。
何故今になって思い出すのか。あの頃はお母さんが自慢げに話すその伝統すらもはいはいと聞き流していた癖に。
あの頃アタシに聞こえていたのは、神経を逆撫でする、父さんが言う所の「正しい未来」だけだった。

「面白い話じゃないのよ、別に」
アタシは少し困って手を振った。どうしてこの透き通るような肌をあんな食器に被せてしまったのか、一分前の自分に憤る。
「昔の話」
「それでも…良い……。良かったら…聞かせて、欲しい……」
困った。
教団に入ってもう暫くになる。ましてや家を出てからの年月など、もはや家で暮らした時間より長くなってしまっていて、正直、夢のように朧げな記憶でしかない。
「あまり覚えてないの、母が大事にしてた事位しか」
苦笑しながら告げれば、そうか……と少しだけ残念そうな声が返って来た。
「ごめんなさいね」
「いや……気にする必要は…ない……。
ジェリーが…家族の話をするのが……少し、珍しかった…だけだから……」
そうかもしれない。飛び出したあの時、アタシにとって家は牢獄でしか無かった。好きでもないムエタイと後継ぎという未来。優しかった母親も、宥めはしても庇い立てはしなかった。
「……そうねぇ、まあ好きだったわ、綺麗だったしね。
あのお皿が出る時は父も母も機嫌が良くて、食事が凄く豪華で……美味しくて」
お母さんは料理が上手だった。それは良く覚えている。夕飯時、空っぽの胃を刺激するスパイスの香り。覚えているのは感覚的な事ばかり。日々の練習で幾度と無く味わった血の味。父さんへの苛立ち。白い皿。
「素敵な…思い出だ」
緩く笑った口唇に手を置いた。そうね、と笑い返す。家を出た日にも使われた、あのお皿に良く似た白い肌。温度の薄いそれに、頭を寄せる。
あの日、アタシが割った白いお皿。
「そうね……」
結末は言わないまま、アタシは話を終わらせた。悲しい思い出なら……もう沢山だろうから。
代わりに頬を撫でる。
「ねぇ、ヘブラスカ」
「貴女も」
家族の事、話さないわね。とは言えなかった。

fin


後書き

ようやくヘブジェリに手を出せました(笑)しかしながら微妙な仕上がり;
やはりこの二人は甘々からの方が良かったかもしれませんねぇ。あああまだまだすぎる。
ま、もう良いですが。
はうー(´>Д<)


write2008/6/21
up2008/6/22

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