Other's story

□空腹と隙間
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お腹が空いているわけではなかった。

ただ、足りないだけだった。


僕はその日、朝からずっと食堂に居た。
重なる皿と皿。
動かし続けているフォークとナイフは、今までのソースや食べ物の欠片でベタベタ。
何人もの教団員が、僕を窘め、諦めて去る。
お腹が空いているわけではなかった。
それでも食べることを止められない。
手を止めると失くしそうで。
何を、だなんてわからない。
そもそも僕は何か持っていただろうか。
カシャン
カチャッ
カシャ
カチャカチャ

ああ。
てが。
とまら。ない。

「ゥぐっ……」

カシャン、と半分程を食べ切った皿にフォークが落ちる。
気持ち悪い。
ぁあ、でも、食べなきゃ。
隙間を、埋めなくちゃ。
食べ過ぎだなんて関係ない。
大丈夫、僕は寄生型だから。
まだ。
まだ。
まだ。

「アレン?」

大丈夫であるか?と背をなぜられて振り向いた。
驚いたような、心配なような表情の彼。

「この皿は…、全部食べたのであるか?」

僕は口に手を押し当てたまま首肯する。
ああ、気持ち悪い。
胃からせり上がるニオイ。
口に残る味。
疲れ切った顎。
痺れ始めた舌。
なのに、隙間は全く埋まっていない。
埋まっていない。
埋まらない。
埋めなくちゃ…。
僕は、落ちたフォークを又取った。

「食べ過ぎだ」

ひょい、と頭の上から銀食器を取り上げられた。
返して、と振り向くけれど彼は眉間に皺を寄せて怒り顔。
ごくり、と濃い唾を飲み下す。

「返して、下さい」

まだ食べなきゃいけないんで、す。

「ダメである」

彼が僕を抱き上げた。

「放ッ……」
「止めるんである」

私が、心配に、なるだろう

ぎゅ、と抱きしめて囁かれた。

「みんなも、心配していた」

普通の声の大きさで付け足して、彼が僕を下ろす。

「だからもうダメである
ほら、医療班から胃薬を預かっている」

はい、と水が渡され、薬が口の中に放り込まれた。
口に水が含まされる。



冷たい。
味がない。
ただの真水。


でも気持ち良い。

とくとくと隙間に溜まっていく。

「……クロウリー」
「うむ?」
「すみませんでした」

心配、かけましたか

そう聞くと、当たり前だと怖い顔をされた。
すみませんと再度謝って、皿を振り返る。
長い長いテーブルに堆く積まれた皿。
こんなに食べたのか、と考えるけれどよく思い出せない。
だって、埋めることに必死で。

「ぅぐ」

と思ったら吐き気が込み上げた。
吐くであるかッと彼が慌てて、ジェリーさんや周りの人達が集まってくる。
酸っぱいものが込み上げてくるのを無理矢理飲み下す。
吐き気は酷かったけど。頭がくらくらしたけど。
僕のためにあわあわする周りが可笑しかった。



お腹が空いているわけではなかった。

只怖かった。

お腹が空いているわけではなかった。

貴方がいなくて。

僕の中が空になったから。

「ありがとう」

僕の世界一。

fin


後書き

意味ぷー

元々はクロアレのはずだったのに…。
アレンに語らせると、アレン主体になっちまう。


write2007/3/15
up2007/4/25

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