Other's story

□濡れては疼く。
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雨の日には目が疼く。
彼も似たようなものなのか、何を思うわけでもなくばったりと出会うことが多かった。
「何してんさ」
「……」
ちらりと目線を寄越して立ち去る。
オレもそんな彼に対して深入りすることはなかった。



雨の日には目が疼く。だから読書にも身が入らない。
しっとりとした空気に、ページ一枚すら重く感じる。
彼がオレの横を通り過ぎていく。
漆黒の髪が揺れるけれど、その動きすら重苦しく見える。
「…何しやがる」
「髪、切らないんさ?」
「勝手だろうが」
「ま、ね」
つい髪を掴んでしまって、チャキリと鯉口を切られた。
へらりと笑ってごまかして。
手を離せば、彼はじっとオレを注視してその身を翻す。
オレはといえば。
閉じた本の上に顎を乗せて、乗らない気分を欝陶しく思うのだった。



雨の日には目が疼いて。
何をするにもやる気がしない。
じとじととしてしまう紙だらけの部屋。
オレはベッドに寝転んでぼんやりと脱力していた。
コンコン、とノックの音が響いて、近くの紙束を押しやりながらドアが開く。
「おい」
入ってきたのはあの彼だった。
「任務だ。…コムイが呼んでる」
ん、と体を起こして、帰ろうとする彼に気付いた。
「ユウ」
ぴくり、と彼の肩が揺れる。
「ファーストネームで呼ぶんじゃねぇ…」
怒気を含んだ声が、オレに対して降り注ぐ。
「ごめんごめん。
で、ユウは一緒の任務じゃないんさ?」
「テメェ…」
彼の目に、オレが映った。
にぱ。
笑いかけると睨まれる。
彼の目に俺が刻まれる。
「ユウ」
オレの姿が、彼に刻まれる。



雨の日には目が疼く。
彼の黒髪も、何処か濡れている。
本は湿気を含んで重くなり、体は軋んで怠くなる。
ご機嫌ななめな彼の目は、何だか泣いた後の様。
だから、目が離せなくなる。
バイオリズムなんて理由付け。
雨の日の憂鬱に責任転嫁。

「ユウ」

「煩せェ」

「一緒の任務さ?」

「違う」

「なんだ、残念」

「…と答えてぇが」

「え、じゃあ一緒さっ?」

彼の瞳が濡れている。
疼くオレの目がその目に映った。

fin


後書き

なんでラビユなんだ。

まぁいいや、黒い目が湿気で濡れてるとエロいよな、っつう話です。


write2007/5/3
up2007/5/3

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