Other's story

□夏に揺れる髪のいろ
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今年の誕生日なんて、さっさと過ぎて、ケーキもプレゼントもなく終わって、毎日が補習補習の夏休み。

 《夏に揺れる髪のいろ》

青春真っ盛りなんて現代日本のコーコーサンネンセイにある訳無く、この糞あっつい中四十人以上のシロクロのセーフクなんか着ちゃってる奴らに混じって、オレは下敷きをぱたぱたやりつつくっだんない古典の話なんか聞いていた。
(更科とか蜻蛉とかー、何でも良いけどー、ひとの日記読むのってー、プライバシーの侵害じゃねぇんさぁー?)
暑くて暑くて、周りも下んなきゃオレの思考もキマらない。
オレくらい記憶力が良いと、授業なんて受けなくてもアリで、今は只単に出席日数をキープするために足しげく学校に来ている。
故に、オレの机の上にはガムのボトルと月刊RockSとオーディオプレイヤーくらいしか出ていない。
(ユウは今頃必死でやってんだろーなぁ)
頭が悪い癖に何をトチ狂ったか理系に進んだ、隣のクラスの悪友に思いを馳せる。
でも。
(………あっちいさぁ)
体の中にまで響いて来る蝉の声と汗が止まらないくらいの暑さに思考が途切れた。
(……つまんね)
一応周りに配慮して、静かにはしてなきゃいけないわけで、誰かには話しかけることもゲームに勤しむことも出来ない。(ゲームは音楽が無いと楽しさが半減すると思う)
つまりは寝るかボーッとするか漫画を読むか位しかすることはない、わけ、で。
漫画も忘れて、毎日赤ん坊くらい寝ちゃってるオレに選択肢はなかった。
(車の免許、欲しいさ)
免許があれば、ユウとリナリーとアレンを誘って海に行って…って、受験生らしく生っちろくいた方が良いのか?
じゃあまぁエイティーンの性春真っ盛り、キャハ★男だらけのAV観賞会が無難か。
暑くて怠くて、思考能力はもう底を尽きかけていた。
(………そーさ)
かたり、と音を立てて鞄を取った。
前でたらたら話していた教師だけがちらりとオレを見て、またチョークでカツカツとミミズ字を増やしていく。
他の奴らは机の上と黒板を交互に見るだけで、オレのことなんてさっぱり見ることはなかった。
教室を出て、廊下を進んで(隣の教室を覗けば、必死で数学をやってるユウがいた)、下駄箱から踵の潰れたスニーカーを取り出して。
砂埃が珠に舞う、灼熱のグラウンドを突っ切って校門を出た。
行き交う人の中、ぷらぷらと歩いていく。
街には夏休みの生徒たちが溢れ、賑やかでオレンジ色の熱を帯びた独特の空気を作っていて、さっきまでの四角い空間とはまるで異世界だった。
「っあー!」
大きく背伸びして、軽く駆け出す。
じりじりと頭が灼けて肌がぴりぴりして汗が滲んでいく。
市民プールまでは一キロ程度だ。
着いた頃には汗だくになっているだろうけれど、きっと水に飛び込めば忘れてしまう。
(やっぱ今さ今!)
瞼の近くで秋には黒になっているだろう赤毛が揺れていた。

fin


後書き

今年の夏休みは一週間しかないことが判明しました。
受験は大切だと思いますが、今の時期の一年間を先の見えない『将来』なんてものの為に全くの棒に振るのは阿呆らしいと友達と話しました。

……しかし何故にラビ?(笑)


write2007/5/30
up2007/5/31

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