StoryY
□ ねむる
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ぼんやりと見つめて貴方を眠ることすら僕は
《 ねむる 》
ベッドの脇には簡素な椅子が一脚切り、眠り続ける貴方はまるでもう忘れ去られたかのように個室に横たわる。たまに来る何時もの回診は体温と血圧とそれから点滴だけをさっと確認するのみ、それはもうルーティンワークの何物でもない。
そりゃあ起きたくありませんよね?
僕は貴方の傍の椅子にそっと腰掛け、枕の横シーツの上に腕を敷き頭を横たえる。微かな寝息だけが聞こえる。お腹の音はしない。もう点滴に慣れ切ってしまったのかと思えば、シャープだった頬が今はこけたと言えるほどに細く、思わずそのこめかみに指を当ててしまった。
……起きたく、ありませんよね。
つうと頬骨をなぞり、指を落とす。彼は夢の中。既に回復したはずの体と剥離した意識。僕はぼんやりとただぼんやりと彼の寝顔を眺める。
良い夢ですか?
聞いてみても答えなど帰ってくる筈が無く、僕は無駄に寂しくなる。それでなくても今は寂しいのに。
……ねえ、クロウリー。
どこか歯になにか挟まったような会話しか出来ないんです。僕はいけないことをしてしまったみたいなんです。僕は監視されているんです。師匠とは会っちゃいけないんですって。気にしないでくれる人もいるけれど、僕はそれが何だか辛い。皆には仲良しでいてほしい。憎まれるのは僕だけで良いと思いませんか?皆、皆、優し過ぎる―――
ねぇ、どう思いますか。
敷いた腕がじめっとし始めて、息をするのが辛くなる。僕は自分がどうして泣いているのか良くわからない。きっと、また、皆に迷惑をかけているからかな。眠り続ける横顔はただ静かで僕の鳴咽も自然と小さくなる。
……クロウリー。
彼が段々視界から消えてゆく。真っ暗だ。
僕には見る夢がない。
……僕も、眠りたい。
搾り出すようにでもはっきりと聞こえてしまった自分勝手な自分の言葉。
……眠りたい、です。
もう夢なんて見れなくても良いから、と後付けした。
fin
後書き
疲れた。
write2008/5/30
up2008/5/30