StoryY

□瑞々シ.
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その指がこの頬を打ち据えても
オレは結局目を開けたまま


《瑞々シ.》


酷く単純で巫山戯た遊び。
ゆっくりと胸肌を滑り落ちていく青白い皮膚にそれを感じる。
何時だって開け放した胸元は少し日に灼け、何時だって覆い隠した指先は透き通るように白い。
どれが誰のものかは明白だ。
彼とオレが一つに成れる筈は無かった。


「どうしたんですかその目?」
ぼんやりしていれば目の前にアレンの手が伸びていた。笑顔で何でもないさと答える。
「赤いですよ」
そんなのは知っていた。
じくじく、ずくずく痛む眼球と瞼の裏。
それでも目を開かない訳にはいかない。見ない訳にはいかない。
だってオレはそれだから。
「んー、寝不足だからじゃね?」
「違いますよ、そんな感じじゃないです」
「結膜炎かもなー。伝染して良い?」
「嫌に決まってるでしょう!!」
心配そうな声はプリプリと腹立たし気な色を帯びた。オレは笑ってそれをいなす。
話すまでも無い。気付かせるまでも無い。
どうなる?それでどうなる?
後戻りが出来れば至極簡単な話だ。違う。これは違う。
もう。
戻りも進めもしない。


柔らかい指の腹はオレの臍を塞ぎ、濡れた胸を弓なりにしかけた筋肉を宥める。
抜け切れなかった力が行く宛を失い体内をぐるぐると彷徨う。ぐるぐると。ぐるぐると。
体が溶ける。蕩けて仕舞う。ヒューズが飛ぶ。そっと粘膜を扱き上げて強引に下ろしながら優しく吐息を吹き掛け舐め上げ指を挿し這い回り髪を撫で耳を食み口をしゃぶり第二関節が押し入れられ圧迫感異物感被虐的快感身を委ね胸が疼く熱がトばない沸騰して悲しくて痺れた跳ね上がる腰押さえて抜かれ突かれ抽かれ衝かれて叫ぶ、叫ぶ、壊れる、
壊れる、
壊して、欲しい訳は。
彼の青白い肌が眼には映らない。
低温火傷しそうなぎりぎりの快楽。
只そこに在って、合って、有る、夢。
馬鹿みたいな空想を貪る。
この行為自体に理由付けすることは簡単で、それなのにオレはそれを考えることをやめた。
だってどうせと子供の様に呟く。
だってどうせ彼とオレは一つに成れ無い。
だってどうせ彼は現実。
オレは異日。
歴日の存在にしか過ぎないのだから。


本の海の中に立ち、探すでもなく眺め回す。
既読書の意味は何か、果たして語られ尽くした後そこに残るものは何か。
哲学書でも読んでみようかと歩を翻してから、観念が何の役に立つとはたと足を止める。
いや、知識は何時だって重要だ。
歩き出す。
要らなくなれば捨てれば良いのだと感じた。
貯蓄する場所には何時か等価の記録が根を張る。
それまでなら構わない。等価の記録を得るために知識を。
ソノタメのソンザイにリユウを。


行為後の息絶え絶えな体に、彼は指を這わせる。
赤いと感じた。
舌先。彼の赤い舌先が、何時もの様にオレの眼を齧る。
歯が当たる。瞼。眼球。怖いのでも無い。夢暫時。夢の、残滓。
息が止まっても苦しくはない。口を開いたままオレは何時もそれを感じる。
眼球を壊す様に触れる舌先は、オレにそれを見せず全てを完全に奪い取った。


じくじくずくずくと疼く目を、閉じる事なくオレは笑って行う。
彼も彼も彼も彼女もあの人もあの場所もあの声もあの痛みもあの悲しみもあの喜びも全てを見る。
見る。
見てインストールする。


「赤いであるな」
彼はオレの下瞼をそっと押さえながら呟く。
少し下げた眉。困った微笑。白い肌。
舌先の色ですか。
『赤』なんて鮮やかな色は分からない。
「……痛いであろう」
抱き竦めて。
知ってる?目の赤い兎の話。
オレは何時か記録したそれをぼんやり思考した。


fin


後書き

目が赤いのは日本白色種という品種のみで実際ウサギは目なんて赤くないんだよ、というお話。
眼球に雑菌だらけの口内粘膜で触るなんて危険な真似は止しましょうね。


write2008/6/17
up2008/6/18

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