StoryY

□ALOE
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ぎざぎざのアロエの刺を毟って、開いて傷口に乗せる。かつて通りすがった町で、老婆が孫だろう少女にやっていた。
広域に存在する民間療法のようで、それからも何回か見たことがある。
ちなみに、オレはその老婆と孫を見るまでは、全くそんなものは知らなかった。

「んでそれジジイに言ったら無茶苦茶怒られたさー、勉強不足だっつって」
笑いながらオレはクロちゃんの手当てを続けた。ジジイは何処へ行っているのか、中々外から帰ってこない。大方、またコムイにでも呼び出されているのだろう。
「はいカンリョー」
なおざりに巻いた包帯を、一応解けないように留めてその手を離した。いつもは真っ黒な手袋が隠している指先も、今は包帯と同じくらい白いその肌をあらわにしている。ひらひらしてみて、と指示を出せば、その白い左手が蝶にも似た動きを見せた。
「ん、解けねェさね」
「凄いであるなぁ……!」
簡易救急箱の蓋を閉じながら、感嘆の声に苦笑する。
お茶を零しただけの軽い火傷。オレはただ単に軟膏を塗り、ガーゼを被せ、包帯を巻いただけなんだけれども、それでも目の前の男はいたく感心したようにしげしげと左手を眺めていた。
「本当に器用であるな」
クロちゃんが不器用なだけだって。とは何と無く言う気になれず、お風呂の時は外して大丈夫だと伝える。
うむ、と頷いたクロちゃんは、ではまたお風呂の後に来れば良いな、と呟いた。
オレは慌てて否定する。
「ん?いやいや、そん位ならもう来なくてもイイって。手袋はしない方がいいけど」
水ぶくれにもなっていないのだから、自己治癒力に任せた方が良いはずだ。赤くなっていた皮膚を思いながら考える。女の子ならともかく、大の大人の男にそんなに大層なケアをする事はない。
けれどクロちゃんは珍しく不服そうにこっちを見る。
「そうだ」
困ったオレは、じゃあ、と一度は仕舞った軟膏を取り出し、はいと渡した。
「風呂から出たらコレ塗って、ガーゼ被せて留めとけば……」
何故かオレを見る視線がキツくなった。というか、ついに怒ってしまったらしい。
やはり理由が読めず、ガーゼとテープも要る?と聞いてみる。クロちゃんはふるふると首を横に振り、軟膏までオレに突き返す。
「クロちゃん?」
「……」
かぁ、とクロちゃんの頬が赤くなった。
「……ラビに」
ちょっと口ごもった後、ラビにともう一度言い直す。
「ラビに手当てしてもらった方が、早く治るである!」
思わず、はい?と聞き返していた。なんということを言い出したのか。じっと目を見てみれば、ふい、と目を逸らされる。けれど俯いた顔は真っ赤で、どうやら本気で思っている訳ではないらしい。
イマイチ理解不能なものの、その様がいつもより格段に。
「……も、もういいである、ありがとう、助かった……」
しどろもどろに立ち上がったクロちゃんを、オレは慌てて引き止め、今夜オレが手当てに行くさ、と囁いた。

fin


後書き

おっかしいなシリアスになる筈だったのになんでだろ……?
ってか……改めてその……自分のクロちゃん認識の悲惨さが……○| ̄|_
姫!姫!!


write2008/7/2
up2008/7/2

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