StoryY

□flicker SIGN
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誰かが死んだら星になるってことは、逆に言えば星の数だけ人が死んでるんだってことさ。
彼の花火をいじるついでに意地悪を言ってみれば、彼は見渡せど見果せぬ夜空からつい、と視線を下ろし、またそんなことをいう、とオレの額を小突いた。
「ラビはもう少し素直な物言いを覚えるである」
はい、とオレが渡した線香花火を受け取り、彼が小言を言う。オレはなるべく体を離したまま彼の花火に火を付ける。
ぱち、と濃紺の帳に明るい橙が弾ける。
ぴちぴち、ぱちぱち。か細い音と幻の様に儚い飛沫。
彼は意外と器用に、吊した先の大きな玉を保っている。じりじりと燃えていく、橙。
「星が綺麗だと思うのなら、ただ綺麗と言えば……」
パァンッ!!
小気味の良い音と共に、増量した火薬が火を吹いた。
「ハイ引っ掛かったー!」
「ラビ!?あああ危ないであろう!!」
尻餅を搗いて叱られても怖くないさ、と手を出し引き起こす。まんまと悪戯に掛かってしまった自分を恥じるように、彼の頬は赤くなっていた。
地面の上で、しゥ、と橙が消えた。
たいした光源だったはずも無いのに、静まり返る周囲、忍び寄る、暗がり。
オレはまた一つ花火を取ると、今度は自分で持って火を付ける。それを見ていた彼も、同じように橙を作った。
ぱちぱち。
ぴちぴち。
暫く、じっと。
「花火は、人みたいに儚いって」
オレがまた捻て言ったらどうすると、橙に見入ったまま尋ねた。どうするなんて、この質問を口にした時点で、質問の意味はないのだけれど。
ちらりと見遣る。
彼もまた弾け消えゆく光をじっと見守っている。
「そうであるな」
オレの花火が唖という暇も無く柄から零れ、まるで無意味に役目を終えた。
その熱が全て消えるまで目でなぞり、顔を上げる。
「だったら、ラビは」
彼の花火もふつふつと喘ぎ、今にも、息絶えそうに揺れている。
「……大層、人が好きなのであるな」
ぱた。
橙がまた一つ、その光を消した。
「どういう事さ?」
暗く光を失った中で彼は柄をそっと地面に臥せ、オレの方を見る。だって、と優しく笑う。
「ラビの目に映る花火が美しかったからこそ、儚く感じるのであるから。
ラビが花火を真剣に見詰めていたからこそ、儚く感じるのであるから」
そう言って、彼はまた夜空を見上げた。
オレも倣って上を向く。長く長く続く、一筋の星の道。夏の果て無く澄んだ空は、掴みたいと手を伸ばしたくなるほどに美しく星達を煌めかせる。
暗く明るいセカイの中で、オレは何となく彼の横まで移動し、その服の端を掴んだ。濃紺に見失ってしまいそうな彼の黒い服。
彼はオレの手を服から解かせると、きゅうと握った。
「……綺麗さ」
「であるな」
消えた橙と何故か似た白くふらめく数多の。
触れる手が温かくて、オレは彼の顔を見れなかった。

fin


後書き

flicker=線香花火


誰かが死んだら星になるってことは、逆に言えば星の数だけ人が死んでるんだってこと、と、花火は人みたいに儚い、のどっちのエピを取るか迷ったんですが、とりあえず小道具が食い込んで来ちゃったので後者で。
あーあー前者もかなりやりたかったー。やりたいー。


write2008/7/8
up2008/7/10

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