StoryY

□イヴの燈
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誰かが死んだら星になるってことは、逆に言えば星の数だけ人が死んでるんだってことさ。
彼の花火をいじるついでに意地悪を言ってみれば、彼は見渡せど見果せぬ夜空からつい、と視線を下ろし、またそんなことをいう、とオレの額を小突いた。
「ラビはもう少し素直な物言いを覚えるである」
はい、とオレが渡した線香花火を受け取り、彼が小言を言う。オレはなるべく体を離したまま彼の花火に火を付ける。
ぱち、と濃紺の帳に明るい橙が弾ける。
ぴちぴち、ぱちぱち。か細い音と幻の様に儚い飛沫。
彼は意外と器用に、吊した先の大きな玉を保っている。じりじりと燃えていく、橙。
「星が綺麗だと思うのなら、ただ綺麗と言えば……」
パァンッ!!
小気味の良い音と共に、増量した火薬が火を吹いた。
「ハイ引っ掛かったー!」
「ラビ!?あああ危ないであろう!!」
尻餅を搗いて叱られても怖くないさ、と手を出し引き起こす。まんまと悪戯に掛かってしまった自分を恥じるように、彼の頬は赤くなっていた。
地面の上で、しゥ、と橙が消えた。
たいした光源だったはずも無いのに、静まり返る周囲、忍び寄る、暗がり。
慣れ切ってしまったその闇の不確かさにふと彼を見遣る。
彼はまた、長く長く続く一筋の星の道を見上げていた。オレも倣って上を向く。
「ソーカン」
「うむ」
夏の果て無く澄んだ空は、掴みたいと手を伸ばしたくなるほどに美しく星達を煌めかせる。こんな日に花火はあまり似合わなかったかもしれない。
暗く明るい夜空に、橙の瞬きは余りにか弱い。
「結局、根も葉も無い作り話さ」
え、と彼がこちらを見たのが目の端で分かった。けれど自分からは視線を合わせず、先刻の、人が、星に、とクイズのように切れ切れに教える。
彼はああ、と頷いて、再び空を仰ぐ。
「光る星は恒星、と言うのだったかな」
うん。短く頷いて、簡単に記憶を引き出してみる。
自分で光を放つ星を恒星といい、夜空に輝く星たちは恒星である。恒星は自身のガスを核融合反応して光を放つ。地球から最も近い恒星は太陽で、地球などの惑星・月などの衛星はその太陽の光を反射し輝く。
また太陽も数多くある恒星のひとつにすぎず、太陽が属す銀河系には大体2千億から4千億の恒星があるといわれる。
恒星は主にその表面温度の違いにより色が違って見え、温度が三千度程度と低い場合には赤やオレンジ、六千度程度では黄色、1万度程になると白色になり、さらに温度が高くなると青白く見える。
実視観測できるうち、最も明るい恒星を1等星とし、かろうじて肉眼で見える暗い星を6等星として、間を分ける形で6段階に分けられている。1等星は最も明るい星と言われるが、実際には0等星以上の明るさを持つ星もある。
「等星は距離と関係を持つが、色は距離との関係を持たない。星との距離は通常光年という単位で表される。光は秒速三十万キロメートル進み、一光年は約九兆四千六百八億キロメートルである。
なお地球と最近距離にある恒星・太陽の平均距離である1天文単位は約1億4700万キロメートルであるため、太陽から出た光が地球に届くまで平均で約8分10秒ほどの時間がかかる。また太陽の中心で出来た光が表面にでてくるまでにもおよそ百万年程度かかっているとされる。
よって、」
そこまでで、オレは口を閉じた。
さぁ、と一陣の風がどこからか流れ着き、二人の髪や服を靡かせる。線香花火の残骸だけが、かさかさと音を起てて。
「……もしかすると」
私達が見ているのは、イヴの光なのかもしれない。
ぽつりと彼が言った。
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