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□淅瀝 君が聲
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壊れ始めたオレはどこにいくのだろう。

墜ちていく、なのに浮き立っている。
突き放される、けれど引っ張り込まれる。
人の中に、ヒトのナカに。
あの薄ら熱く不快に湿った体温の中に。

溺れる。


「……何すんさ」
何の音も立てずに離れた口唇を眺めたけれど、たいした感慨は得られなかった。
少しかさついて仄温かい皺だらけの皮膚。
今まで幾度も重ねて来たものと何の変わりも無い、消化器官の始まり。
さしたる違いも無かったが、強いて言えば押し付けられた瞬間、薄い癖に酷く赤いそれの裏に、鋭い白が存在を主張した位か。
「聞いてる?」
答えが返ってこないので、もう一度笑顔を作って揶揄う。
表情の無い長身は、巫山戯た置物の様だ。
「……そーゆーことしたいなら、そう言えば、」
シてあげるさ?
嗚呼丸で詰まらない。折角の誘いにもやはり反応は無く、飽きてしまったので笑うのを止める。
『見る』事に意味が無いものを、何時までも相手にはしていられない。
もう一度だけ、動く気配の無い影へ目を遣り不躾なキスに中断させられた読書に戻った。
本だけを映した左眼は淀みなく文字を読み取り、脳みその空いている部分へと植え付けていく。
「  」
半身がそれを知覚した。
紅い口唇は薄く薄く開かれたのだろう、呼び声はナカで濁り、殆ど聞こえない。
それでも振り向いてあげれば、……結局、変わり無い表情が見える。
ツマラナイ。
「何?」
投げやりに尋ねる。
時間が少し過ぎる。
先刻までの視覚情報はとっくに処理し尽くされ、貪欲な左目はまじまじ目の前のものを観察する。
同じエラーが続いた。ツマラナイ。ツマラナイ。ツマラナイ。
「……ラビ」
それでも待てば漸くきちんと声が飛んで来たから、ご褒美。自前のパレットに表情を満たす。
下がった眉と上げた頬、引いた口角細めた目。
「なーんさ、なっさけない顔して」
男前がダイナシっしょ、と動き始めた置物にへらりとしてみせる。
へらり。
「もっかいする?」
振り出しの揶揄いに今度は反応が返った。
小さな頷きを合図と見なして首に捕まれば、慌てたような表情がとろけて小さなキスになる。
感慨を覚えようも無い当然の感触が再び伝わり消えていく。
口角は維持。
「んン、」
始まるのは昔に何度も繰り返して来たムツビアイの反復練習。


壊れ始めたオレはどこにもいけないのだろう。

それでもそんなオレの脚を支え、腕を牽く。
酷く戸惑い半ば諦めながら尚、優し過ぎる程優しく。
それなのに嗚呼このガラクタにはとっくの昔に忘れた痛覚ばかりが戻る。
完全に乾いた土が水を拒む如く、只それは愁訴を催し。
そう、与えられる体温は薄ら熱く不快に湿っている。
オレはその奇妙な愉快さに抗う術も無く、

溺れる。

fin


後書き

淅瀝 君が聲(せきれき きみがこえ)


最初の一行書いて放置してたブツ也(´ω`)


write2008/9/25
up2008/9/25

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