StoryZ

□Curtain call.
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繋いだ手を離す時が来るなんて、思ってもいなかった。
彼はそんな嘘を吐いた。
その爽やかで嘘臭い悲しそうな笑みが観客である私にまざまざとぶつけられる。
ずっと一緒に居られると思っていたのに。
そんな陳腐で白々しい言葉が決して手の届かない舞台の上から降り注ぐ。
奈落の底にも等しい場所に居る私を、華やかな壇上から見下ろして何と思うのか。
全く揺るぎの無い訣別の台詞は、それ以外の結末をまるで望んではいないようで。
「さよならだな」
終幕の合図と共に、彼は私へ最期のプレゼントをくれる。

くずおれた体は円舞曲を躍るように空々しい程優雅な動きで舞台に横たわった。
俺は自分が施した演出の素晴らしさを自画自賛して拍手する。
俺達が創るのは本物の舞台。故にこんな悲劇でなければならない、それは彼を選ぶ前から決まっていたことだった。
ロミオとジュリエットも真っ青な、悲劇。
「なぁ、」
ああ、緞帳等持たないこの舞台は何時終幕を迎えるのだろう。今この場面を終えて、まだ俺は演じなくてはならないのか。
きっとそうだ、彼の人の合図があるまでいつまでもいつまでも演じ続けなければならないのだ。
「……まさか、こんな事に、なるなんて、な」
それまでは泣き伏す事すら許されない。
「……」
与えられたシナリオが終わるのは、まだまだ果ても無い先の事。これは壮大な喜劇の一幕でしかなく、居もしない観客を飽きさせない為の些細な強勢にしか過ぎないのだ。
そう粗筋には描かれないだろう程些細な悲劇。単なる戯れ。
だって俺達は只の。
「でも、」
役を終えた彼の冷たき肢体に指を添わせる。どんな俳優も敵わない全てを投げ打った演技は、けれども誰にも届きはしない。
「俺は、」
嗚呼、此れ位のアドリブは許されるだろうか?
「本当に、アンタの事、」
口にしかけて過剰な演出は不必要だと思い直した。
これ以上何処に色付けが必要か。此処には青ざめた白と黒ずんだ紅、この舞台にお誂えの腐り切った全ての彩りが揃っているじゃあないか。
これ以上完璧な装置が何処にある?
嗚呼それに、この言葉を台詞にしてしまってはならない。この言葉だけは与えられた演じられた偽物のものであってはならない。そうだろ、そう、思うだろ?
俺は思う。例え俺達が名も無いほどの端役であるとしても手にしていた全てを懸けて演じたのならば。
「……アレイスター」

全てが終わって。
終幕を迎え。
静黙の喝采を浴びた後に。

カーテンコールでキスをしよう。


fin


後書き

悲恋悲恋!!
久しぶりに死ネタですね、珍しく原作な「舞台」比喩となりました。
自分でも何故なのかわかりません!(笑)
しかしティッキーがアレイスターラブ過ぎてキモいわーwww


write2008/9/29
up2008/9/29

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