StoryZ

□声のムコウ
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その言葉を耳にしたのは、全くもって偶然の事だった。

「……クロちゃん」
オレが柔らかく崩れた背中に声をかけると、ガチャンとけたたましい音を立てて受話器が置かれた。
その動作は異様に慌てていて、オレが声をかけたくなった先刻までの優しい空気は無い。
高みにある目が威嚇するように、けれど酷く怯えてこっちを睨む。どうして?さぁ。
「……ラビ」
どれほど経ったのかガチガチになった体から若干力が抜かれ、曖昧な笑みがこちらに向いた。
「どうかしたのであるか?」
身体で電話を隠すようにして振り向いた姿。背中で受話器に触れたままの手。
その機体にはゴーレムが繋がっている様子も無く、只先程の反応を示す如く、コードだけが大きく揺れて。
必死で作っているのだろう笑顔は何処か引き攣り、余計な力が肩を強張らせている。
――――下手さね。
オレは歩を近付けないまま何でもない、と告げた。瞬間あからさまに胸が撫で下ろされる。
もう行かねェ?と言ってみる。クロちゃんはちらりと電話の方を振り向いて、それから躊躇うようにうむ、と小さく頷く。
駅までは少しある。小綺麗で人通りの少ない路地を隣り合ってあるきながら、それでも何処かヨソヨソしい態度に。
……オレは、してはいけない質問を喉までのぼらせた。

『――――先刻の電話、誰と話してた?』

態度の全てが俺を遠ざけようとしている。
教団と通じるゴーレムはいなかった。
交わしていた言葉。とろけるような空気。電話。任務。相手。秘密。会話。
オレは、ごく、とその毒を飲み込み、ぎこちなく世間話に興じる。
その間も、耳には立ち聞いた言葉が、耳から離れないその会話がリフレインしていた。

――――最近はどうしているであるか?

――私も、逢いたい。

――――――もちろん。

――――愛しているである、ティ――――




ガチャン、と、電話がけたたましい音を立てて切れた。
受話器を持つ手が小さく驚き、繋がらなくなったそれを元の位置に返す。
やれやれ、と言うようにわざとらしく、けれど絵になった仕種を見せながら、今まで機体に釘付けていた目が仲間を見遣った。
少し離れた場所で様子を窺っていた男の仲間は、その動きを見てああという表情をする。
「何だよまたか?」
「また別の仕事か」
その不満げな顔は何処かほほえましく、ティキは違う違うと大袈裟に否定して歩み寄る。
「ちょっと、ね」
そして口ではあからさまに言葉を濁しながら、酷く柔らかく、笑んだ。
その顔は、いつもは無口な少年の興味を誘ったらしい。マスクの下の口が控え目に動く。
「恋人?」
と声がした。
へ?
キョトンと少年を見たティキの煙草から灰がぽとりと落ちた。
大きな笑い声が辺りに弾ける。
「おいおいんな訳あるかよ!」
「イーズ……お前かっわいーなァ!」
首を傾げる少年の頭に、大きな手が乗せられた。その手は細い髪の毛を混ぜるようにわしわしと動く。
ぱちぱちと瞬きを繰り返す少年に、二人の大人がまた笑う。
そんな三人を見ながら苦笑していたティキが、ほんの一瞬だけ目を細めて呟いた。

「――きっと、そう思ってるよ――――」

fin


後書き

グッダグダです○| ̄|_
咎落ちとかどうなってんだって話ですがまぁそれはね。
しかしあの浮浪者仲間もう出ないんですかね。イーズが見たい。


write2008/10/7
up2008/10/13

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