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□Smiley You!
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「何処に行くンすか」
見えない手に掴まれたようにがくんと進もうとしていた体が止まった。静止、約十秒。
その合間に大股で近付いて来た青年の手が、やや高いところにある襟首に触れようとした時――――
「達磨さんが転んだ!」
固まっていた体がぱっと青年を振り返りそう叫んだ。
攻守が逆転した。青年がびくりと静止すればその隙をついてひょろ長い身体が走り出す。しかし青年もそれを見逃す訳がない、瞬時に反応してその背を追う。
駆ける白衣かける二。意外と俊敏な長身はリーチの長さを武器に逃げ切ろうとし、意外と良いがたいの青年は執念と体力を武器に追い付こうと迫る。
一進一退の攻防戦。それは幾度と無く繰り返された争い。
周囲の人々は疲れ切った目でそれを追いながら、黙々と仕事を続けている。
もはや誰にも止められないかと思われた争いの終止符は。
「遊んでいる場合か」
という台詞とごちん、という音によって呆気なく打たれたのだった。
「「〜〜〜〜!!」」
はてさて、転がったのは互いに額を押さえた長身と青年である。二人に額を押さえさせているのは、気品ある仁王立ちで二人の前に立つマントの人物。
「ッ、何するんだいクロウリー酷いじゃないか!」
「何するんすかクロウリーさん痛いじゃないですか!」
「はン」
アレイスター・クロウリー三世その人だ。
クロウリーは二人の非難をせせら笑うと、手が滑ったのだとしれっと微笑した。
その表情は実に美麗で、今起きたことなど何ともない様にも見える。
が、互いに強く打ち付けられた長身と青年の額は早速ぽっこりと腫れ上がり始めていたし、有能な二つの頭脳は微細な脳震盪を起こして揺れていた。
それは希有な人材に対してのあまりの行動。もしこれが他の人物だったなら酷い叱責を受ける行為。
しかし、これ位ならばクロウリーの微笑で打ち消されて支障無いのもまた事実だった。
しばし無敵化の微笑を纏った後、クロウリーの表情は無愛想に変化した。無愛想な口元から吐かれるのはそう無論、
「貴様ら何を遊んでいる。
周りを見てみろ、これ以上仕事が滞れば死人になりそうな奴らばかりではないか」
お小言である。
耳良い声が二人の上に落とされる。
長身はぶうと頬を膨らませ、青年は実に申し訳なさそうにそれを聞く。
「良いか、上が動かねば動かん仕事もあるだろう。場の雰囲気を作るのは誰だ。
責任と統括がその手に委ねられた意味、それは貴様らの方が重々承知しているだろうが。
全く不要とは言わんが遊ぶのも大概にしろ」
はい、と青年が頷く。クロウリーはそれを認めて小さく息を吐き、零すように付け加えた。
「第一、何かある度に何故か一々呼び出される私の身にもなれ」
ぱぁあと染まったのは青年の頬だ。青年はすみませんともごもご呟き、隣の長身を睨む。
長身ははーい、などと気の無い返事をしているが、元々は彼がクロウリーに会いに脱走を試みたのが原因なのだ。青年はそれを阻止するべく動いていたのだ。だから、青年にはそれなりの大義名分が与えられていて。
とはいえ、青年も『アンタだけ会いに行かせるもんか』という気持ちが割に大きく妨害理由に有ったため、反論は出来そうに無かったのだが。
暗転。
一通りの小言が終わりクロウリーも二人もさて、と息を着いた所に、ふわりと紅茶の香りが漂った。
見れば荷台を押して、少女が一人やってくる。
長身がぱっと笑った。
「お茶が入ったけど、要る人ー?」
あちらこちらで手が上がる。少女は荷台から大振りのティーポットを持ち上げて歩き出す。
「リナ……」
立ち上がり駆け出そうとした長身はクロウリーの一睨みによって押し止められた。
「……貴様は」
鬼気迫る表情も、綺麗である。
「分かったのか?」
否とは言わせない口調でクロウリーが尋ねた。長身がぶんぶんと首を縦に振り、青年がすみませんとまた謝る。
それを見たクロウリーの前髪が、ふわりと額に落ちる。
口がニコリと優しい微笑みを湛える。
「分かったなら良いである。
喉が渇いたであろう?お茶にしよう」
ニコニコ、にこり。
ああ。
と。嗚呼、と長身と青年は顔を赤らめながら思うのであった。

明日も、きっとお小言、くらうなぁ。

fin


後書き

リナリーの口調わからんwww
これ甘いですよね?甘いですよね!?


write2008/11/2
up2008/11/2

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