StoryZ

□お口にちゃっく×
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「好き、です」
噛んだ。
「好きです」
声、小さい。
「好き、好きです、好きです」
声が震える。
「……ダメだ」
上手く言えないのは何でなのか、どれだけ考えても説明出来ない。
別にたいした言葉でも無いはずなのに、どうしてだろう。
どうして、あの人の事を思い出すだけで言えなくなるんだろう。
「……好きで、す」
やっぱり、噛んだ。
まるで病気みたいだ。変な病気。彼にだけ好きですと言えなくなる病気。変な病気。
「……みたらし団子、が、好きです」
言える。
「ジェリーさんが好きです」
言える。もちろん美味しい料理も、好きです。
「ラビが……まぁ、好きかな」
うん、悪ノリする時を除けば、嫌いじゃない。
「リナリーが好きです」
ちょっと恥ずかしいけど、一人だから大丈夫。
「神田……は置いといて、ミランダさんが好きです」
リーバーさんが好きです。
ジョニーが好きです。
トマが好きです。
みんなが好きです。
あの人が、
「好、き、ですっ」
また噛んだ!
ああもう、どうしてだろう。なんで彼にだけ言えないのかな。こんなに好きなのに。何でなんだろう。
「気弱で、」
「純粋で、涙もろくて、」
「……強くて、大人で、優しくて」
大好きなのに。
「……好き、です」
「誰がであるか?」
「!!」
後ろを振り向けば、彼が立っていた。思ってもみなかった登場に心臓が跳ねる。何時から聞かれていたんだろう。どうしよう。何でこんなに慌ててるんだろう。
「何でもないです!」
思わず叫んで、自分でもびっくりする。今のは変だ。絶対に変だった。ああもう、どうしよう!?
「……ふふ」
ぽんぽん。
あ、……笑ってる。
頭を大きな手で撫でられていた。髪の毛が少しくしゃくしゃになる。
「考え事でも?」
「ッはい!」
「そうであるか」
人の良さそうな笑顔を浮かべて、まるで猫でも撫でるみたいに髪を掻き混ぜる彼。その手が頭から退けられて、何だか少し心細くなった。
……ラビにされたら腹が立つんだろうな。
ふと、そんな事を考える。
ついでに付け足してみる。
……でも、彼の手は、構わないかも。
「アレン?」
「あ、はい!」
また慌てて返事をする。本当に病気みたいだ、どんどんおかしくなる!
「何か悩み事なら話せば楽になるかもしれないが」
病気も話せば治りますか?
でも、だって、おかしいのはあなたの前だけでなんです。なのに話せなんて、少し酷じゃないですか?
答えられなくて、彼の目を見る。ふ、と笑いながらも眉が下がる。
「……私でなくても構わないんであるよ」
ああ!
「違います、クロウリーが嫌な訳なんてないじゃないですか!!」
すぐに訂正すれば、そうであるか?と安心したように頬に触れられた。
かぁと頬が赤くなる。隠しようもないけれどごまかすように声を大きくした。
「上手く話せないんです」
ぱちりと彼が瞬きをする。
「ただ一言言いたいだけなのに、上手く言えないんです」
そう、あなたに、好きだと伝えたいだけなのに。
「ふむ」
考え込む彼の姿、胸が跳ねている。ええと、そうであるなぁ。私もあまり、口達者な方では無いが。ぶつぶつと呟く声に、鼓動が早まる。
「上手く話せなくても、大丈夫である」
にこり、彼が僕に笑った。
「……え」
「アレンが悩む程強く伝えたいと思っているならば、きっと伝わっている」
にこにこと笑う顔が証拠のように、確かな口調。
はい、とも言えなくて、ただ頷く。
頭も顔も、全部が熱くて良くわからない。まだおかしいのは変わらないみたいだ。
なのに。結局伝える方法はわからないままなのに、結局まだおかしいままなのに、気分は何だか嘘みたいにすっきりと晴れていた。
「ああ、やっと笑った」
彼が触れたままだった僕の頬をきゅっと擦る。その強さがくすぐったくて、少しだけ目を細める。
「……アレン?」
「はい」
ふわふわ、気持ち良い、てのひらの温度。
「私はアレンが好きであるよ」
「僕もクロウリーが大好きです」
あ、言えた。

fin


後書き

うわぁぁあ。゜(゜^ω^`゜)゜。ナンダコレー


write2008/11/7
up2008/11/7

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