StoryZ

□知らない君と
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「彼は僕が診る」
その青年は真面目な顔をして、眠る男を動かそうとした団員を制止した。
一瞬不審がった団員もその声の主を見て小さく頷き別の場所に駆ける。
辺りにはまだ山のように人が転がっている。仕事は多い。青年がああいうのであれば問題はない。そう判断したのだ。
若く小柄ではあるが、青年はこの場の最高責任者なのだから。
慌ただしく働く人々の合間を縫って歩きつつ、青年は付き従う老齢の男性に口早に尋ねる。
「今までにどの位終わった?」
せかせかとした動きに遅れそうになりながら、男性は手持ちのボードを覗き、青年に答えた。
「今半数程を搬送し終えました、しかし何分医療班員が足りません。早急に人員補強が必要かと」
「わかった、近くのサポーターに応援要請を。軽傷の者は近隣の医師に頼むように」
「はい。それと、暫定ですが調書が出来ました」
「今読む、此処に持って来てくれ」
「はい。では」
男性の足が止まる。青年はそのまま十歩ほど先に進んでからはたと振り返り、
「ああそれと、彼を任せる。手厚く看ておくように」
そう言って、また元の方向へと歩き出した。


ぱら、と細かな墨文字で綴られた調書がめくられる。
やや薄暗い室内には寝息以外に響く音もない。青年は簡素な椅子に座ってまだまだ要領を得ない報告を目で追いながら、全く、と溜め息を吐いた。
――――大方またアイツのせいだろう。
青年の脳裏にアハハーと笑う憎らしい顔が浮かぶ。
調書に書かれているのはどれも「同僚の様子がおかしかった」ことや「噛まれてからの記憶がない」ことだけだ。今回の騒ぎの中核に触れるような記述は一切ない。
それもそのはずだった。
今意識がある者は症状が極軽い、恐らくは発生源から何人もを隔てて巻き込まれた者ばかり。彼らは不幸な犠牲者に過ぎないのだから。
ただ、青年は確信していた。
間違いない。
教団で起きる下らない騒ぎの原因は大抵の場合――否、何時だって――あのシスコンのせいに決まっている。と。
「……くそっ!」
パタン!とファイルを閉じると、青年は首筋をぽりぽりと掻きながら立ち上がり、目の前のベッドに寝ている人物を見下ろした。
起きはしないが、別段変容も見られない。ぐっすり眠っている。
青年はぴくんとこめかみを動かすと、ああくそっと呻きつつがりがりと喉から胸元までを掻きむしり、その眠る体に手を伸ばした。
「……早く起きろ!」
青年の手が乱れた布団をかけ直す。
脈と血圧は正常。聴診や触診でも問題は無かった。けれども血液検査で、既に眠り込んでいる「彼」が事態の発生源だというのは判明している。
青年はすやすやと寝息をたてている彼の横、腰に手を当てしばし何事か考えると、フ、と不敵な笑みを漏らした。
「アレイスター・クロウリー三世か」
早く起きろ。
青年が繰り返して言う。
そして、あのはた迷惑なヒョロのっぽについて、被害者同士意見を交わそうじゃないか!
はーっはっはっ……。高笑いが病室に響く。そんな青年の思惑など露知らず、彼は静かに寝息をたてているのであった。

fin


後書き

ぐぁあ……!!
バリエーションに困って匠に聞いたところ、「バクちゃんで砂吐き越える甘」なる無茶振りを……!!
ふざけんなあんな何も関わりの無い二人をどうやって甘に持ってけゆうんじゃぁあ!!!!
……甘は無理でした○| ̄|_
しかし二人の関係パターンが頭の中に出来たので、また書くかもしれません。結果オーライ★……?


write2008/11/11
up2008/11/11

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