Story[

□金糸雀
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目を開くと、後ろから射す陽に照らされて笑う貴女の顔が見えた。


     《金糸雀》


「眠っていたのか」
「ええ何時の間にか」
私は二、三度瞬きをしてから彼女にそう尋ねた。彼女も何でもないように笑ったまま答える。そうか、と私は上半身を起こす事なく短く了解をした。
「よく眠ってらっしゃいましたわ」
にこりと彼女が笑い、ふいと上を向く。
「良いお天気ですもの」
太陽は粲々と降り注いでいた。
彼女の姿は何と儚いのか、と思う。柔らかい陽射しに輪郭は掻き消え、酷く脆く、今にも笑ったまま。
「……どうされたんですか」
私は彼女の頬に触れた。
私の手と彼女の柔らかな肌の間で、まるで生糸のような艶めいた彼女の金の髪が落ちる。
さらさらと、するするとそれは砂時計の中に閉じ込められた限られた刻の砂のように滑り落ちてゆく。
「まだ寝ぼけてらっしゃるんですの?」
彼女が私に笑う。
安らかに緩み切ったその眉間。
緩やかな曲線を描く口唇。
整えられた眉。
細められた瞳。
いやですわ、と何度も髪を掬い上げ撫でる私に、彼女がくすくすと笑いながら言った。
さらさらと指の間を、てのひらを、爪の先を滑り落ちていく金糸。
彼女は私の名前を呼びながら、また笑いながら、止めてください、と悪戯っぽく私の手に指を添える。
細く白い指先。
飾り気のないピンク色の爪。
握れば折れてしまいそうな手。
彼女の指が私の手を押さえる。
さら、と彼女の頬と私の掌の間から、豊かな金の髪が零れ始めた。
「……エリアーデ」
私は彼女の名を呼んでみた。
「何ですか?」
彼女は笑顔でそう答えた。
「これは」
私は少し言い澱む。
「はい?」
聞きたくはないのだ。本当、は。
「……夢、なのであろう?」
尋ねた私に彼女はほんの一瞬だけ驚いた顔をして、そしてその壊れそうな程の美しい笑顔を哀しそうに緩めた。
「そうですわ」
「そうか」
「ええ」
さらり。髪が一房。
「どうしてお気づきに?」
「……私が人間だからである」
「人間、」
「貴女に触れていられるからだ」
さらり、また一房。
「……そうですわね、」
温かい手。彼女は呟いた。私は彼女の脚に頭を預けたまま、その触れられない笑顔を見上げていた。
てのひらには彼女の頬の温度は伝わってこなかった。くるはずもなかった。私は彼女の頬にこの手で触れたことがなかった。触れられなかったからだ。
私はあの頃。
「……アレイスター様」
「綺麗だ」
もう髪は殆ど滑り落ちていた。私は彼女の目に言い聞かせた。
「綺麗である」
彼女が微笑う。
髪が落ちた。
笑った。
目を閉じる。


目を開くと、見慣れない天井が見えた。
「おーい、まだ寝てんさー?」
「僕たちより遅いなんて珍しい、疲れてるんですかね」
窓の外からは、美しい囀りが聞こえた。

fin


後書き

少女漫画か。
題名はカナリアじゃなくてきんしじゃくと読んでもらえると嬉しいな!
金だし繊細なイメージだし実は原種は地味だったりするし(改良されて華やかに)なんかピッタリだと!まぁタイトル付けてから気付いたんだがな!(うわぁ)


write2009/3/22
up2009/3/23

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