Story[

□笑顔と砂の関係性
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色のない夢だった。
砂ばかりが目の前で舞って何も見えない。どこまでも見果てない荒野。足跡すら残らない。目さえ開けられない。只世界。只広がるだけの世界。
その人の姿が見えた気がした。私の方に手を伸ばして、その人が立っているような気がした。それは錯覚だったのだろうけれど。
その人の髪が赤かったのを思い出した。
私の腕の中で優しく揺れた髪を思い出した。
そういえばずっと昔、ずっとずっと昔には金色も知っていた。
花のように綻ぶ美しい顔を知っていた。
私はどこまでも、その花を愛でていた。
いつの間にか私は花園など失い、気が付けばここにいる。何もない。何もない。砂が踊る。砂が狂う。
その人の色の無い手が私に伸ばされた気がした。かつては赤だった、今はもう色を失ったその人の髪が揺れた。私の腕の中にはもうその人はいない。その人はもう行ってしまった。
全て錯覚だ。
ずっと昔に抱き締めていた金色は、花のようなあの人は居なくなってしまった。
そしてまた赤いその人ももう居なくなってしまった。
砂嵐が吹き荒れる。どこまでも吹き荒れる。
世界は色を失った。伸ばされる指は錯覚。ここにはもう何もない。
只ひたすらに笑った。彼女のようには笑えない。彼のようには笑えない。それでも笑っていた。
砂嵐が吹きすさぶ。
白いあの子は元気だろうか。いつの間にか手を放していた。あの子は笑っているだろうか。
どこかから見ているかもしれない。私を見ているかもしれない。大丈夫、笑っているであるよ。私はここでも笑えている。大丈夫。色は失くとも。夢であっても。
笑っている限りは大丈夫なような気がした。きっとあの人もその人もあの子もどこかで笑っているような気がした。私は笑っている。だから皆もきっと。
私の手と誰かの手が触れ合っていなくとも。
目に砂が入った。目から水が落ちた。目に砂が飛び込む。砂嵐は止まない。どこまでも砂は踊る。笑う口に砂が入る。肺に砂が落ちてゆく。段々溜まって息が出来ない。息をする度砂を吐く。私の目から水が落ちる。どんどん渇いて、でも止まらない。砂嵐も止まらない。私は世界に染まっている。私はいつも笑っている。砂が踊る。息が出来ない。私は笑う。水が落ちる。いつまでならば大丈夫だろうか。いつまででも大丈夫だ。私が笑っている限り皆も笑っているだろう。だから大丈夫だ。私は笑う。世界に染まってもいい。私は大丈夫なのだから。皆も笑っているのなら。
手が伸びる錯覚を見る。
その人の髪は赤くない。
手が伸びる錯覚を見る。
その手は私に触れられない。

fin


(後書き)

砂嵐の先には何かがあるのだろうか。
気が付けば身体は砂に混じっている。
開いた目の前に砂が刺さる。
誰かの名前を呼ぼうとした。
呼吸は砂で埋まっていた。
……笑うだけならば出来た。
笑っていれば大丈夫だろう。


write2009/4/9
up2009/4/9

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