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□闇拾い
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堪え切れない程の痛みにすら打ち勝って、その腕に掻き抱いたのは長き闇。




「何を怖がっているのであるか?」
壁を背にしながらも決して仰け反る事はなく,少年はぎりりと男を睨み上げた。男はきちりと襟元も正しく団服を着込んだ少年に反して、酷く軽装だった。
すらりと白く長い腕が前に伸び、少年の肩を捉えようとする。
少年はじり、とその手が触れる一瞬前に男に飛びかかった。男は、避けもせずに襲いかかろうとした少年の腕を取り彼の名を呼んだ。
「ッちィッ」
少年は激しく顔をしかめながら、腰に提げていた刀を手にしようとした。
「――――避けないであるよ?」
男が微笑った。
少年は男が自分の腕を引いて、その広げた両手の中に抱きしめようとしているのがわかると少しだけ焦ったように刀を抜いた。

ズシャッ

皮膚を突き破る僅かな抵抗感の後、筋肉や内臓を切り裂きながら刃先が男の体に沈んでいくのを少年は感じた。
痛みのせいか一瞬男の手が緩み、少年はさっと手を振り解こうとする。しかしそれでも、男は一度離れた少年の手首を掴み直すと、先程よりも強く、胸元に掻き抱いた。
二人の体の間で、押し込まれた刀は遂に男の背中から顔を覗かせた。
「……避けないと言ったであろう」
微かに、ほんの微かに跳ねた少年の鼓動を感じて男ははは、と笑った。
少年の腹に、刀の柄が食い込んだ。
「放せ」
「嫌である」
ぱた、と男の背中から飛び出た切っ先を、血が滴り落ちた。少年は、それを男の肩越しに聞いた。
「……この、馬鹿」
少年が憎々しげに呟いた。はは、と男がまた笑った。





耐え切れない程の痛みにすら打ち勝って、その腕に掻き抱いたのは長き闇。


fin


後書き

特に意味はないんです(笑)神田にも怖気づかないクロちゃんを書こうと思って。
まぁ神田の方が怖気づくこともないとは思いますけどね。


write2009/4/14
up2009/4/26

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