Story[

□cell
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撫で上げた首筋は、白くその下の血管を浮かび上がらせ、僕の手の平の下で優しく嗚咽を漏らした。

         《  cell  》

目を閉じないで夢を視る様に、どこか頼りのない風景の中、彼の姿だけがいつも現実を示すように浮かび上がって見えた。白い肌を黒衣で隠し、弱弱しく微笑む顔。その儚さが僕に現実を教えてくれた。
毎日の様に続く戦闘。減ることの無い悲劇。毎日、毎日、目に映る痛み。
「――――――アレン」
ああ、この人はいつまでも美しい、美しすぎる人だと思った。
硬いベッドの上でその背を震わせて、痛みを耐える様に、悲しみを堪える様に。その特異を抱えた体を持て余す様にシーツを握り締めた姿は今にも透けて消え去ってしまいそうで、僕はそっと手を伸ばす。
白い肌は僕の手を飲み込むことは無く、その微かな震えと冷たさと、僅かに早い鼓動を教えてくれた。
触れた肌が逃げないように、ゆっくりと、撫で上げる。
恐れ慄き、怯えながらも、深く悲しむ、白い真白い彼の姿。
僕が触れた途端、彼の瞳からはらはらと透明な涙が落ちた。この手に安堵したように、押し留められていたものを還すように。
苦しむような嗚咽が僕の耳を打つ。
どうして脆いもの程美しく思えるのか、どうして儚いもの程大切だと思うのか。理由に意味がある筈がない。彼は、真新すぎる彼は、今にも僕の目の前で、僕の手の中で薄れて消えてしまいそうなのだから。
「――――アレン」
せせらぐような嗚咽に、異物のように僕の名が混じる。何ですか?僕は透明な瞳を見詰めないようにしながら、あざとく微笑んで彼に声を浴びせる。彼は喉を詰まらせた。まるで吐き出してしまえば僕を傷付けるとでも言うように、優しい彼は言葉を押し込める。
「アレ、ン」
ただ、そう、僕の名を呼ぶ。
はい、と僕は彼の頬に触れる。アレン、と彼が悲鳴のような声で呼ぶ。はい、と僕は彼の肩に触れる。アレン、と彼が祈るような声で呼ぶ。はい、と僕は彼の首を。
美しすぎる。優しすぎる。儚すぎる。真白すぎるクロウリー。
クロウリー、クロウリー、クロウリー、僕は口を噤んだまま彼の名を呼ぶ。決して声に成してはならない。
半ば消えゆきそうな透明な貴方に、今にも粉々に砕け散ってしまいそうな貴方に、これ以上、存在を与えてしまったら。
この手は、きっともう二度と貴方を捉えられなくなるだろうから。
「――――――――アレン」
彼が確かめるように僕の名を呼んだ。
僕は、そっと、彼を壊してしまわないようにそっと、きつく、その半透明の体を抱き締めた。
「はい」

この体の汚れが、願わくば彼の盾になりますようにと。

fin


後書き

アレン夢見過ぎやてwww
真新、は、まさら、と読みます。


Write2009/6/18
up2009/6/18

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