Story\

□お茶日和
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僕は彼の側で何本目かのみたらし団子を口に放り込みながら、空を舞っている蝶々を眺めていた。今日はうららかだし、空は青いし、お団子は美味しいし、申し分のない休日だ。
「それでですね……」
「うむ、なるほど……」
なのに、僕とお茶をしていた筈の彼は、僕の隣に座っているにもかかわらず、僕と話すどころか僕の方すら向いていない。急にやってきた科学班の人とずっと話し込んだまま。
「では、水のやり方を……」
「肥料の方は……」
ふう、と僕は溜息を吐いてひらひらと花壇の間を飛び回る蝶々を目で追いかける。白い羽に一筋の黒の模様。ああ、色が逆なら、少し彼に似てるかも。そんなどうでもいいことで気を紛らわせる。
「葉の落ち具合は……」
「色の濃さが……」
それでもすぐ隣から漏れ聞こえてくる声に、ついつい耳が大きくなる。僕とお茶を飲まないで、しなきゃいけないような大事な話。彼の声がはきはきと明るくて、何となく癪に思う。
「……なるほど。さすがクロウリーさん!ありがとうございました、試してみます!」
あ、と思わず振り向いて彼を見ると、彼は去っていく科学班員に手を振っているところだった。やっと終わったんですね、と責めるような言葉が出かけて、慌てて口に最後のお団子を詰める。彼が僕の方に向き直って、すまなかったであるな、と苦笑した。
「いいえ、全然。大丈夫です」
僕はさっきまでの全部をきゅっと仕舞い込んで、彼ににっこりと笑ってみせた。そう、全然大丈夫なのだ。僕たちはたまたま一緒に休みになって、たまたま一緒にお茶をすることになったのだから。
本当は、僕がずっと計画していた事は秘密。
「すっかりお茶が冷えてしまったである」
彼はそう言いながらも湯呑みを傾ける。ずっと話していたから、喉だって渇くに決まっている。ちなみに暇だった僕のお湯呑みは、ずっとずっと前に空にしてしまっていた。
はぁ。僕は小さく溜息を吐く。楽しみにしていたお茶の時間は、あの科学班員の乱入で台無しだ。用意していたお団子も、暇を持て余した僕のお腹にすっかり納まってしまっている。彼が湯呑みを置いたら、笑って片付けに入らなきゃ。
「アレン」
そんな事を考えていると、彼が湯呑みを置いて僕に笑いかけた。
「……何、ですか?」
その笑顔にドギマギした。笑い返しながら、落ち着かない心臓にこらと怒っておく。何だろう、何で呼ばれたんだろう、と彼を見上げて待っていると、彼が湯呑みとお団子の皿の乗ったお盆を持って立ち上がった。
あ、何だ、やっぱり、おしまいか。
僕が片付けますよ、と言おうとして、片付けの為に立ち上がろうとして、でもなんとなく、動けなかった。
「……であるが」
だから、彼の言葉も聞き逃した。
「え?」
「だから、私がもう一杯お茶を貰ってくるであるから……」
僕は二度目の筈の彼の言葉も、きょとんとして上手く処理できなかった。
「……えーと、でも、あの」
「あ、この後に用事でもあるならこのまま片付けてくるが」
「!!ないです!で、でも、」
「……アレン?とにかく、ここで待っていてほしいである」
あ、と僕が困惑している間に彼の背中が消えていた。僕は座ったままほけっと彼の向かった方を眺めてみる。なんて、言われたんだっけ。
『もう一杯もらってくるであるから』
『ここで待っていてほしい』
思い返して、ようやく、彼もまだ僕とお茶をしてくれる気なのを理解する。
「……うわ」
嬉しくて、声が出た。
口を押さえて、笑みも殺して、踊る心臓を叱りつける。それでもやっぱり帰って来た彼を見ると、笑って名前を呼ばずには居られなかった。
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