Story\

□Before!
1ページ/3ページ

「あ、マリ。今日は誰かに何か質問されても、ちゃんと答えてあげてね」
通りすがりのリナリーの言葉に頷きながら、マリは心の中で再度首を傾げた。

    《Before!》

「あぁ、マリ、今日は誰かに何か聞かれたら答えてあげて下さい」
「マリさん、あの、質問って、答えてもらうと嬉しいですよね?だから、その……」
「な、問題出されたらどうするべきだと思う?そうそう、答えてあげるもんさ!んじゃよろしく!」
マリは廊下を歩きながら、今日の朝から散々釘を刺されている事について何度も首を傾げていた。
『質問には答えること』
念押しされるのは何時もそれで、しかしマリには思い当たる節が無い。誰かの質問をないがしろにしただろうか、否。クイズでも流行っていたか、まさか。ふむ、と首を捻りつつそれでも進めていた足を止め、ノックを三回。
「失礼します」
「やぁ、待ってたよ」
マリは、頭に浮かんだはてなをおくびにも出さず、任務の説明を受ける為にコムイの前に立った。それを見て、先に来ていた神田が少し離れて横に立つ。
暫く真面目にその説明を受けた後、コムイがこの位かな、と言ったのを合図に、マリはまた頭に浮かんだその疑問にはあ、とため息をついた。
「あ、そうだそうだ。ねぇマリ、今日なんだけど……」
「『誰かから質問されたら、必ず答えてあげること』ですか?」
コムイの言葉をさえぎり、マリはうんざりするほど教えられた言葉を口にしてみた。あれぇ?何でわかったの?コムイののんきな声が聞こえる。
「今日は朝から何度もそういう事を言われるんですが、何かあるんですか?」
ここぞとばかりに、マリはコムイに尋ねかけた。あ、知らなかったんだ、と笑う声。
「今日から一週間前だからね」
しかし返ってきたコムイの言葉も、訳のわからないものだった。
「……ええと?」
「来週、何があるか考えてみて」
マリは頭の中で、予定表をめくってみた。来週……何があったか。考えてみるがめぼしい行事は見付からない。
何か、と困ってマリはコムイに尋ね返す。
あれ?とコムイが首を捻る。
「本当に何も思いつかない?」
「ええ」
そっかあ、と笑うコムイは、どうやらそれ以上教えてくれる気は無いらしかった。
マリは仕方ない、とため息をつき、挨拶をして部屋を出た。
「……それで、どうかしたのか?」
部屋を出て、後ろを振り返る。そこには珍しく、マリの後ろを追うように神田が立っていた。
「今日は珍しくすぐに出て行かなかっただろう。私に何か用があるんじゃないのか?」
「……」
「……」
「……」
「……えーと、どうかしたのか?」
「答えておけよ」
繰り返して尋ねるマリに、神田はじっと視線を浴びせてから、ふいとそっぽを向いて何度目かのあの台詞を口にした。マリはもう「何に」と聞き返さなかった。溜め息を吐いて、腕を組む。あの神田にアドバイスを貰うほど、どうやら事は重大なようだ。
「……聞いていいか?」
「……」
「その……皆が言うそれは、何の話なんだ?」
神田が、少し黙した後にあいつが来る、とぼそり呟いた。
「あいつ?」
「いいか、答えておかないと、いつまでもあいつに――――」
その時、遠くの方からマリ!と名前を呼ぶ声が聞こえた。
ビクン、と柄にもなく神田の体が反応する。バタバタと走り来る音。ひらひらとマントの裾をなびかせて――――――
「良かった!!やっと見付けたである!マリ、今ちょっと良いであるかー?」
ぜえはあと息を荒げつつ笑ったのは、アレイスター・クロウリーその人だった。
「……あぁ、良いが。どうして私に?」
「マリ」
神田が低く鋭くマリを呼ぶ。
「ちょこっと尋ねたいことがあるんである!」
「尋ねたいこと……」
マリはあぁ、と忠告に出てきた「質問」を思い出す。そして、どうやら神田の言う「あいつ」本人らしいクロウリーを前に、ふうむ、と顎に手をあてた。
「それは良いんだが……理由を教えてくれないか?」
「内緒である!」
ずっぱりとクロウリーが拒否をした。マリはきょとんとしているが、神田は気まずそうにクロウリーを見ようとしない。そんな中、クロウリーはにこにこと笑いながらどこからかメモを取り出し、では聞くであるが、とさっさと質問に入ろうとしている。
「好きな食べ物は何であるか!?」
「……え」
「好きな食べ物である!」
マリの様子など丸無視で」、笑顔でずずいっと迫ってくるクロウリーに、思わずマリが後ずさる。マリの後ろに立っていた神田は、それでも黙ってそこに立っている。
「ど、銅鑼焼きだが」
「ドラヤキ?であるな!では次は、ええと、好きな飲み物は何であるかー?」
「え、ええと……」
答えれば答えるだけ続く質問は、その後しばらくの間続き――――――
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ