Story\

□恋の駆け引きをしようか
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「っ……ア!」
突き刺した手の平から滴り落ちる雫を絡ませた指で掬い取り舐め上げる。糞むかつくあの白髪のように、優しく笑いかけようとして、奴の目尻からぼろりと馬鹿げた涙が零れるのを見た。
思わずその頬にかじりつく。
「う、あァア!?」
耳元に寄った奴の口が鼓膜を震わせる。その大声に思わず顔を離し耳を押さえた。それを見上げた奴が、俺の下でびくりと肩を震わせる。
ああ、どうしてこいつは。
「……何だ?」
にい、と笑いかけてやった。
笑えと煩く言い寄って来るお前にだけ、笑ってやるよ。そう耳元に囁いてやる。あの浮かれ兎みたいに垂れ流しじゃない、特別で上等の笑みだ。
嬉しいだろうが、と磔けにしてある両手に指を這わせた。実際に、嘘であろうと笑えるほど可笑しかった。手の平から俺の刀を生やし、もう俺に笑いかけない馬鹿の姿は。
指で、刀をぐいと揺らす。奴が小さく息を飲む。神経は切れていないらしい。奴の指先が、びくりと跳ねた。
「怖ェか?」
青白い顔が、じっと小刻みに怯えながら俺を見詰めている。じっと。
「……だったらもう二度と近付くな」
もう一度、笑いかける。
そうしてから奴の纏っていたズボンに手をかけた。驚いた奴が体をよじり、突き刺された傷にまた顔をしかめる。ズボンは下着もろとも膝の辺りまで引きずり下ろした。
露わになった、肉の無い下肢。奴の声が、震えながら、漸く言葉を成す。
「ィ、嫌でぁッ……!!止ッ!」
今更に。
「餞別だ」
「!?」
俺は奴の足を取り、その白い内股に噛み付いた。
「いッ、何ッ……!イヤ、止め、でッアぁ!?ヒぁ……!!」
噛み跡から滲んだ血を舐め上げた。手の平のそれと同じ味が、再度口の中に拡がる。濃く甘い、異常の味。目の前には、薄い茂みが見えた。

ズルリと刀を引き抜いた跡から、一瞬だけ床に付いた傷が見えた。
それはすぐに傷から滲んだ血で掻き消え、見えなくなった。俺はその穴に指を挿し、肉を探るようにして一番鮮やかな赤を捕らえると、白い白い奴の口唇にゆっくりとなすりつけた。
「……あァ」
ぼろぼろに汚れた格好で寝そべる奴。目尻を赤くし、顔に白を飛び散らせて口唇を赤くして。その姿は無性に綺麗に見え、それ以上に、可笑しい。
だからまた、奴に笑みを見せてやった。
奴の表情は変わらない。どくどくと止まらない赤に浮かぶ手の平を、ぎゅうと握り締めながら、今一度その頬に歯を立てる。傷口に指を挿し入れ掻き回す。
奴の声が、俺の鼓膜を揺らすことはない。
「……良かったか?」
囁けば、その赤い目がじわりと潤む。泣き叫んだ喉が痛むのか反論はない。俺はその乱れ汗にへばり付いた前髪を掴んで掻き上げながら、繰り返し聞く。
「逃げたくねェ程、良かったのか?」
また、奴の目尻からぼろぼろと雫が落ち始めた。俺は笑い声だけ噛み殺し、奴に笑顔を与えながら手の平の傷をくちゃくちゃといじくった。
馬鹿が。
嫌なら拒絶すればいい。手の平に刺した刀なら、肉を裂けば抜けられる。口に耳が寄ったなら、ただ叫ぶだけで不意が突ける。それをしないなら、……しないなら。
「もう一遍、笑ってやるよ」
「ッ……ふぁ、あァ」

また初めからだ。

fin


後書き

温い\(^q^)/


write2009/8/28
up2009/8/28

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